ストレスやプレッシャーは、成長の砥石であり、次のレベルに突き抜けるチャンスだとも言えます。
自身の仕事を遂行する、あるいはキャリアを構築する上でストレッチ(自身の許容を越え背伸びした状態)な仕事や、就寝を忘れて働く状況にでくわすことも多々あると思います。しかし同時に俯瞰するもう一人の自分が客観的にストレスに押しつぶされないよう、またオーバーワークになっていないかを見守る必要があり、いわゆる“燃え尽き症候群(Burn Out)”への注意が必要です。
私自身もかつて燃え尽き症候群に近い状況に追い込まれたことがありました。
状況的には物理的に離れた2カ所のホテルをハンズオンで担当せざるを得ないことがあり、1カ所は人事並びに経理(含むITと購買)を直接担当し、片やもう一方は経理財務の総責任者として売却を予定している旗艦ホテルを兼務するという環境下でした。
皆さんもご存じの通りホテル現場は不測の事態のワンダーランド。多くの喜びや達成感があるのも事実ですが、それに負けない数の様々な問題と信じ難い驚くべき出来事が起こることがあります。
当時は直線距離で約1000km離れた2カ所のフルサービスホテルでそれぞれに違う問題に取り組んでいました。詳細は書けませんが1つは上述通り、ホテルファンド系の売り手と買い手の意向を具現化しつつ、ホテル担当者として案件をまとめる役割であり、一心不乱に業務に邁進する日々がありました。
元々は前向きに物事を考えられる性格で苦労を苦労と感じないのが自分の持ち味でしたが、度重なる出張と徹夜、時間との戦い、そして強度なプレッシャーにより、やる気の減退、無気力、そしてホテルに向かう途中で自宅へ引き返えそうとする心の叫びに襲われました。
これが軽いうつ症状であるというのを気付くのはもう少し後になってからでしたが、この経験はそれまでの自分はどこまでも行ける、やれるという根拠のない自信に“?”がついた瞬間でした。
最終的には紆余曲折ありましたが売却は成功裡に終わり、業務をする上での自分のキャパシティの限界を知ったこと、そしてその後の自分の中でのベンチマークになったこと(すなわち“あのとき”に比べれば大たことはないという割り切りの基準、比較対象になりました)、そしてそのことにより精神的、技術的にひとつ階段を上がれて強くなった自覚が生まれたことは財産にもなりました。
ストレスがない世界は存在せずストレスといかに向き合い力にしていくが“ホテル(コーポレート)アスリート”である我々の課題でもあります。
退屈だけの状況だとパフォーマンスそのものは低下し、逆にそれ相応のストレスやプレッシャーの中で人はやる気や高揚感が増加し、パフォーマンスがあがるという研究結果があるそうです。ただし、問題はその期間が長すぎると今度は不安や不良を起こし精神的に病む可能性が高くなるようです。
筋肉を増量する際はストレス(いわゆる筋トレ)を徐々にあげ(例えば鉄アレイをいきなり10Kgを持たずに3Kg程度から実施し、徐々に負荷をあげていく)、回数と時間をかけながら行うのがもっとも効果的だそうです。
すなわち我々もストレスを自身でコントロールしつつ、心身を慣らしていき、強いプレッシャーやストレスに負けない自分を手にいれるべきなのです。そして、ストレスと巧く付き合い、それを梃子にし、今日より1ミリでも前に進みましょう。
世は不透明、不確実そして複雑性が増しています。各々に任せられる仕事の量や質は過去に経験したことがないものになりつつあります。そうした状況に負けない“ホテルアスリート”として総合的なネットワークの構築と自助努力をしましょう。
私自身は本格的に心理的状態が悪化する前で踏みとどまれたのは問題解決に立ち向かう際の周囲の手助け、置かれた状況をどう考え、どう振舞うかという上司からアドバイス、そして家族、友人による支えとケアにより、自信と勇気をもって次へ進むという気持ちになれました。こうしたプロフェッショナル、パーソナルでの分野のネットワークによるサポートが必要だと思いますし、また自分なりのストレス発散方法(私ですと歌う、踊る、寝る、食べるですが…)により気分転換をはかれるネタをもつことも必要だということは多くの皆さんもご存知かと思います。
ワークライフバランスという言葉があります。多くの業界がそうですが、ホテル業界も最低の人数(最低の最低の人数)でそれぞれが最大のパフォーマンスを発揮しビジネスと成立させるというのが世の趨勢です。これについてはホテルもビジネスである以上、否定はできません。しかし自分なりのリフレッシュの方法や仕事と生活とのバランスを考えておきましょう。自分を守るのはこれまたやはり自分です。
- 福永 健司 プロフィール