Ⅳ.人を動かす
支配人や課長という、管理職クラスの役職者の方はもちろんのこと、宿泊・サービス業界に於いては、レストランや宴会などのサービス職や客室担当職などで、アルバイトや外注業者からの派遣の方々などの「人を使う」立場に、比較的早い段階から従事するケースが、他業界よりも多いように思います。
各々の立場ごとに託された「人」は、その立場の職責を果たす為にあなたに与えられた「武器」となります。
個々の「武器」の長所や短所・使い方をよく理解し、「武器」が最大限の威力を発揮できるように「使う」ことができるかどうかによって、その組織の力が決まってきます。
また「武器」自体の能力・威力を高めることも、組織の力を増すことに直結します。
与えられた「武器」を育てて、力を高め、各々が最大の力を発揮できるように使うことができれば、個々の「武器」にも付加価値が備わると共に、組織の力が強まることによって、“組織マネジメント”というあなたの付加価値になります。
人の力を引き出す上で大切なこと、と聞いた時に最初に頭に浮かぶのが「モティベーション」という言葉だと思います。
「モティベーション」を辞書で引くと、「物事を行う為の動機や意欲になるもの、動機づけ」(大辞林)という説明があります。
スタッフに意欲を持ってもらい、動機づけを行う為には、目指すべき組織のゴールを明確にして、その中で「あなたに期待する役割」をきちんと各人に明示することが重要、だと考えます。
「人」にはそれぞれに「力」があります。もちろん10の力を持った人と5の力を持った人、3の力の人など、その力の大きさは様々ですが、大切なのはそれぞれの持つ力を、①「最大限発揮してもらう」ことと、②「集約する」ことです。
高校の数学に“ベクトル”という考え方があったのを、ご記憶の方もいらっしゃると思います。
上記の例で10の力の人と、5の力、3の力の人が皆同じ方向を向くと、力の量は3人合わせた18になりますが、10の力の人と5の力の人が逆を向いてしまい( 10 - 5 = 5 )、3の力の人が横(=0)を向いてしまったりすると、3人合わせても力の量は5にしかなりません。
組織は人の力
各々の持つ「力」を集約して、同じ方向を向いてもらう為に設定する「目指すべきゴール」が、その「組織のビジョン」ということになります。
組織(大きな単位の組織:GM、支配人から小規模単位の組織:店長、チームリーダーまで、あらゆる段階の組織)のトップに立つ人が先ずやるべきことは、組織の全員が共有できるような、わかりやすく、具体的なビジョンを策定することです。
無論このビジョンの策定にあたっては、第1章で述べた自社、及び競合先のSWOT分析を行い、その上で「これを達成すれば勝者となり得る」と皆が納得するゴール、ビジョンを策定する必要があります。
もしホテル全体のような大きな組織であれば、そうして策定された大きなビジョンを達成する為に、各部門、各店舗といった組織単位毎に、各々何をするべきか、という次の段階のトップによるビジョン…、というように階層を重ねることになりますが、この場合でも各々の段階のビジョンが有機的に結びついて、全体のビジョンを支えるものになっていなければなりません。
地域で愛されるホテル
また、中長期の目標であるビジョンを掲げただけではダメで、達成への第一歩を踏み出す為には、今年はどこまでをめざし、何をするか、という、各年度毎の具体的目標へのブレークダウンも大切です。
気をつけなければならないのは、単に数字目標だけのものはビジョンとは言わない、ということです。
もちろん具体的でわかりやすい数字を掲げることは大事ですが、そのホテル(組織)を、お客様にとって、地域にとって、そこで働く人にとって、どのようなものにしたいのか、その為にはどんな位置づけとして、どのような戦略を採って、その数字を実現するのか、そうした思いをすべて込めたものをビジョンとすべきです。
その組織が目指す理想形はどのようなものなのか、をはっきりと定義して、所属する人たちには全員でそこを目指して努力していく事を求める訳ですから、そこにたどり着けば自分たちにどんな良い事があるのか、についてもきちんと示して、参加への動機づけを行う(=モティベーション)ことが大切です。
年商20億円の道
ビジョンはその組織にとっての中長期の中枢となるべき支柱であり、そこに向かって皆で駆け向かっていくフラッグでもある訳ですから、一度決めたビジョンを安易に変更したり、撤回してしまっては、折角力を併せて努力しようとしている所属員を混乱させ、モティベーションを奪うことになり、ひいてはトップの信頼を失うことにもなりかねません。
それだけにその策定にあたっては、所属員に「このビジョンならば成功する」「実現させたい」と思ってもらえる、吸引力・納得感のあるものでなければなりません。
そして共有した組織のビジョンの達成に向けて、所属員全員に対して、各々が果たすべき役割を与え、それに対する上司の期待を伝えて、モティベーションを高めることも、組織を預かる人の大切な仕事です。
「このチームを、こういうことのできる組織にしたい。その為に君には是非こういう役割を担っていってほしい。君ならば必ずやり遂げてくれると信じている。」と、組織のトップが腹を割って真剣に話をすることで、意気に感じてくれる部下は多いものと考えます。
部下をマネージする立場の人をみると、大きく2つのタイプがあります。ひとつは部下を厳しく叱咤激励し、上司の権限を以って何が何でも「やらせる」、イソップ物語になぞらえて「北風型」と呼ばれるタイプ。もうひとつは部下の良いところを褒めて励まし、モティベーションを上げることで「自らやる気にさせる」太陽型のタイプです。
受け手である部下の性格にもよりますが、一般的には北風型の場合、部下の持つ力の90%程度しか引き出すことができないのに対して、太陽型の場合には100%を超えた力を発揮する場合もあり、太陽型の方に分があるように思えます。
どちらが自分に向いているか、は各々の性格や部下との相性もありますが、この章の冒頭で述べた通り、人の力を引き出すには、いかにその人のモティベーションを上げるか、ということに帰結する訳ですから、それを充分に考えたマネージメントスタイルとすることが肝心です。