細田 中世の城塞都市、カルカソンヌでしたね。一度訪ねてみたいと思っていたんです。そこで有名なカスレという料理をいただいたのが記憶に残っています。
中村 いやぁ、あの時の場面を鮮明に覚えております。カルカソンヌは(フランスでカルカソンヌを見て死ねということわざがあるほど)中世の街並みがそのまま生きている街で世界遺産となっています。この地方の食がフランスの地方料理を代表するカスレです。これはご承知の通り、白インゲン豆が主役の鍋料理です。豆料理は世界中にあって、いかに豆が人類の食に貢献してきたかがわかります。このラングドック地方のカスレはカステルノダリー、トゥールーズ、そしてカルカソンヌの3つの街でそれぞれ名物料理となっていていまして、それぞれが本家と名乗っています。とても素朴で私も大好きな料理ですが、量が多いのですね。その時もシェフが日本から美食グループがくるというのでものすごく張り切り、これでもかと作り、待ち構えていたわけです。でもみなさんはそんなに食べられるわけでもありません。私もシェフに申し訳ないと思い、無理して限界まで腹に詰め込み後が大変でした(笑)。
細田 そうでしたか(笑)。そうしたお話を伺って、改めて料理と建築が不可分な関係にあるな、という印象を持ちました。最近、特に食の部分が、建築に大きな影響をもたらすと感じています。
中村 例えばどういうところでしょうか。
細田 昔は日本でも台所や居間を区分していたんです。区分するということが近代化のスタートだったわけですね。明快に区分してそれを並べていく。だけど今の社会はそうじゃなくて、そういうものをいかに融合させるか…、例えば、最近よく言われるオープンキッチンだとか。
中村 居間と食空間を限りなく一緒にして、より居心地の良い空間を作る。
細田 その通りです。そういう世界が増えてきて、食という部分を離れて建築を考えることがなかなか難しいということが多くなってきているんですよ。さっき申し上げたように、大学や高校のフードコーナーをきちんと整備することによって、学生も増え、勉強するようになるとか、コミュニケーションがよくできるような場になってくると思うんです。そういう意味ではこれからますます食の役割が重要になってくると思っています。