日本ホテル株式会社 特別顧問統括名誉総料理長 中村勝宏氏
株式会社佐藤総合計画 代表取締役社長 細田雅春氏
はじめに
十六名の食のエキスパートと対談をした前回に続く第二段として、新しい視野の元、敬愛する方々との対談を行なっていく本連載。第7 回は建築家であり㈱佐藤総合計画 代表取締役社長の細田雅春氏にご登場頂いた対談のPart3 をお送りする。
建築と執筆
中村 いやぁ細田先生にそこまでいっていただくと非常にうれしく、またすごく責任を感じます。お時間も最後の方になってきましたので、あと一つだけ伺わせてください。食と建築、またはあらゆる相乗的なことなど、先生の日ごろの思いまたは、これからの展望などをお聞かせください。
細田 さっき話したシリウスという建築を作ったときに、本というものがすべての領域に散らばっている。どこへ行っても本が読めるようにしました。本を読むだけでなくて、本のある場所でやすらぎや居場所を見つけ出す。そこに食も加わり、コーヒーを飲んだり、場所によっては簡単な食事ができたりする。そういうようなことを進めて、区切っていく社会でなく、いろんなものを重ね合ってつながっていくような、そういう社会にしていくことが、これから重要なことなのではないかと思います。ですから、食というのは本当に大きな役割を果たしていくことになると思うんですね。私たちが東京ビッグサイトをやったときも、コンベンションセンターですが、食の空間の充実を考えました。あれもまだまだ断片的ではありますが、もっと食というのが建築の中に浸透していくような建築を、私は作っていきたいなと思っています。
中村 先生は実際に先駆者としてさまざまなことをなされていますが、すごく納得することであります。そして今、本のお話が出てきたので、ぜひ触れさせていただきます。先生はすごくたくさんの本を読まれていますし、また見事な文章もお書きになられます。私も先生の本を拝読させていただき、すごく感服しております。日ごろご多忙の中で、あれだけのことをお書きになられることを不思議に思っています。以前本の中で文章を書くことは自分にとって必然的でとても大切なことだと書かれておられました。
細田 私にとって、建築をするということと文章を書くということはイコールに近いんです。つまり、文章を頭の中で整理するということは、建築の複雑なものを構築していって体系化するということに似ています。完全に同じというわけではないので、文章の世界から建築を見て、こうした方がいいとかいう刺激を受け、お互いにせめぎあう関係を私は文章と建築の中に意識しています。