福永 海外に行く機会や情報が増えるほどにお客さま自身の知識も豊富になり、海外ウエディングに対しても求めることが多様化しているのですね。
長谷川 チャペルはもちろん今でも人気があるのですが、中にはテディベア作者の生誕の地で結婚式を挙げたいとか、トスカーナの草原で結婚式を挙げたいなど、ニーズは多様化しています。それらのご要望を満たすことが他社ではなかなか対応できないところかもしれません。約30 年間培ってきた現地とのコネクションや人脈があればこそ実現できたことと言えるでしょう。今日までの知的財産を生かし、お客さまの心をつかむことが大切です。また、ヨーロッパに初めて行かれるお客さまに対しても自身の知識や情報を先行させることなく、ニーズをきちんと理解し、提案、説明ができなければ成約につながりません。そのためには、自身で見聞を広げ、自分自身を磨き続けていかなければならないと思います。
福永 どのように育成されていらっしゃるのですか。
長谷川 始めはペアで接客のことを学びます。その後、定期的に行なっているヨーロッパウエディング説明会のときにデビューします。お客さまの反応を見ながら説明をしていかなければなりません。お客さまによって捉え方や理解の度合いが異なりますので、その部分を十分に見極めていく力も求められます。慣れてくるとどうしても多くを語りがちですが、それが必ずしも良いとは限りません。気持ちを理解しようという配慮がなければ、お客さま自身がイメージを膨らませ、無形を有形化させることができないからです。
福永 ウエディング以外の旅行も扱われているとお伺いしましたが、どのように対応されていらっしゃるのですか。
長谷川 ウエディング、ビジネス、インバンドの3 チームで運営しています。チーム単位で業務を任せています。チームで考え実践し、その結果を全体で検証することでそれぞれの自信につながります。毎年期末に翌年の目標数値を個人、チームともに設定、目標達成の場合は賞与にも反映されます。月に1 回、全体ミィーテイングを行ない、数字を見直し、業務における課題、問題を話し合う時間も設けています。モチベーションが上がらないからやる気が上がらないという声もあります。しかしながら、この仕事の醍醐味はお客さまの感動や喜びが直接反響されるところにあります。目先のことではなく、感謝や喜びの声に感動し、運営的にはリピートにつながる可能性に自分自身の価値を見いだしてほしいと思います。
福永 お客さまに喜んでいただけたときや感謝のお言葉を頂戴すると、それはお金では買えない喜びの瞬間となります。そんな喜びをチームで共感できると、自然とチームワークもよくなりますね。
長谷川 特に富裕層に向けた旅行デザインは自分自身がラグジュアリーを知らなければ説得力がありません。ゆとりや楽しみとはなにか、を自らが大いに体験することです。富裕層がストレスなく日本でお過ごしいただくこと、また日本の富裕層が海外においてストレスなく旅を満喫いただけることが第一です。そのためには1社単体の限界はあります。同様な旅をデザインしている世界の旅行会社とのネットワークや人間関係を構築し、旅行社間も信頼を持ってストレスなく、ミスのない旅をアレンジしていくことが求められます。ウエディング業界同様、私たちのような専門特化した旅行エージェントもお客さまと生涯つながっていくことが生命線だと思います。だからこそ、常にお客さまの旅の感動や喜びをどのようなカタチで実現させていけるかを自分で考え、提案していく力が求められるのです。
福永 ところで、海外とのやり取りは日本時間では対応できないこともあるかと思われますが、労務管理はどのようにされていらっしゃるのですか。
長谷川 21 時以降の残業は許可を必要としています。海外とのやり取りにおいて時差はありますが、今日やるべきことを限られた時間内で進めていくよう指導しています。仕事の優先順位を考え、まずはお客さまにご迷惑をかけないことが第一です。結婚後も限られた時間で作業効率を上げることで優秀な業績を上げている者もおります。
福永 出産や子育てをしながら働き続けることは簡単なことではありません。しかし、その環境を作っていくのも自分自身だということですね。本当にこの仕事が大好きという気持ちがあれば、生涯の仕事として携わることができるのだと思います。最後に今後の展開などお聞かせください。
長谷川 常に時代の流れをつかみ、ヨーロッパ専門の旅行エージェントとして価値ある存在であり続けたいと思います。そのためにステップアップできる人事考課、働きやすい労働環境、労務管理に努め、新たな挙式場やフォトウエディング商品の開発、富裕層を対象とした旅行の受け入れ強化など、これまで築いてきた基盤を軸に、テロによる事件など海外旅行を脅かすさまざまな負の要因の中でも、走り続けられる企業であり続けたいと思います。
福永 目に見えない夢や感動を売る商売は、販売する側、購入する側ともに価値観に個人差があり、商品物販とは異なる難しさがあります。人間力をどのように磨いていけるか、磨ける環境を経営側がどのように作り出していけるか、無形を有形化していく難しさを改めて実感いたしました。ウエディング含めたヨーロッパ専門の海外旅行の次なるチャレンジ、ウエディング業界の発展のためにも、さらなるお取り組みを祈念いたしております。本日はありがとうございました。
リージェンシー・グループ㈱
代表取締役社長
長谷川 清美 氏
学生時代にヨーロッパ一周したことを機にヨーロッパ専門旅行会社に就職。接客、添乗、手配などのすべてにかかわった後、団体ツアー全盛期の1988 年、プライベート旅行をアレンジする旅行会社を設立。お客さまの「ウイーンで挙式ができないか?」のリクエストに応えて以来、イタリア、スペインと日本人が挙式できるエリアを増やし、あくまでヨーロッパにこだわった海外挙式を展開。現在では16 カ国130 ケ所以上の式場でのアレンジを手掛けるとともに、そのきめ細やかなアレンジのノウハウを持ってハネムーンツアー、ラグジュアリー旅行、訪日旅行のアレンジにもシェアを広げ、現在に至る。
㈱フェイス 代表取締役
福永 有利子 氏
レストラン・ゲストハウスのウエディングプランナーから各現場の管理職としてマネジメントを担い、確実に業績を伸ばしてきた。2003年にウエディングプランナー養成スクール講師をはじめ、06年より大学にて非常勤講師として教壇に立ち、現在も教鞭を執っている。06年堂島ホテル婚礼部長に就任、その後08年同ホテル副総支配人に昇任。09年には㈱フェイスを設立し、代表取締役に就任。現在は、ホテル・ゲストハウスを主に成約率向上を目的としたトレーニングや集客戦略立案・実践支援などのコンサルティングに加え、ウエディング全般にわたる支援を行なっている。著書・ウエディングプランナーじゃない、アカンのは上司や! 悩める管理職のアメムチ19の育成術