㈱帝国ホテル 代表取締役社長 定保 英弥 氏
すべてのお客様への感謝を胸に
好調な時こそ先への備えを
1964 年の東京オリンピック後、その翌年に起きた一時的な不況から脱し、わが国の経済は右肩上がりで二けた成長が続く「いざなぎ景気」を迎えました。ホテル業界全体も例外なく好調であり、高度経済成長の総決算ともなった大阪万博開催を前に新規開業や増改築が相次ぎ、当時は第2 次ホテルブームとも呼ばれる活況でした。
その後の日本経済は安定成長期に移り、ホテル業界も拡大基調を続けておりましたが、バブル経済崩壊後の1990 年代以降は、長引く景気の低迷と円高、デフレ経済により、約20 年もの間、長く厳しい時代が続きました。
2012 年のアベノミクスの始動により、円高が是正され、国を挙げてのインバウンドの推進、そして2020 年に再び東京五輪が開催されることが決定するなど、この数年でホテル業界を取り巻く環境には久方ぶりにフォローウィンドが吹いています。おそらく、ホテル業界に身を置く方のほとんどがそうであるように、私もこの流れができる限り長く続くことを心から祈る一人です。
このように、改めて過去50 年を振り返ってみても、良いときもあれば、暗く厳しいときもありました。今の盛り上がりを2021 年以降も継続させることができるかどうかに関しては、私たち自身の肩にかかっているといっても過言ではないと思っていますが、一方で、これまでの歴史が語るように、ホテル業というのは景気の波に左右されやすい業態であることを改めて感じる次第です。
もちろん、景気だけではなく、時代の流れとともに国内や世界の情勢は変化し、人々の価値観や常識さえも絶えず形を変え続けており、現代においては膨大な情報量がさらにその変化を加速させ複雑化させる中で、10 年後を語るのはなかなかの覚悟を要することです。
「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とは、ドイツの政治家オットー・フォン・ビスマルクが残した言葉です。その解釈はそれぞれかと思いますが、私は、今の好調なときだからこそ、その恩恵に麻痺されることなく、苦しい時代に先達が乗り越えてきた軌跡を振り返る作業とともに、この先どんな時代が来ても持ちこたえていくための基礎体力づくりにしっかりと備えていくべきであると考えております。