福永 具体的に新卒者向けにどのような研修を行なっていらっしゃるのですか。
宮本 新卒社員入社前研修、新入社員研修、OJT、フォローアップ研修などベーシックな研修はもちろんのこと、入社後、一定のスキルを積み重ねた社員のアドバンス研修としてトータルデザインウエディング研修を実施しています。
ウエディングプランナーは一顧客一担当制ですので、すべてにおいてコーディネートができる知識やノウハウが求められるからです。ウエディングプランナーだけでなく、シェフやフラワーコーディネーターも受講させます。
福永 それは素晴らしいことですね。学びたくても時間や費用の問題でなかなかさまざまなことを学べるチャンスが少ないのが現状です。
宮本 このほか選択型研修も多数用意しています。大きな企業だからと、画一的な研修に個人をはめ込むのではなく、個別にひとりひとりを見て、個人のニーズやキャリアプランに沿って、必要な研修を自らが選択して受講できる制度にしています。「成長したい」という意欲のある人はさらに成長できるチャンスがありますし、会社にとっても人材の成長はとても貴重な財産と考えます。勤続3 年を超え、選考を通過した社員には海外研修も用意しています。これも単純に会社が用意した研修に行かせるというスタイルだけでなく、行く先を自分で決めて自由なプランを作るようにしています。座学では分からない今を五感で感じ、改めて自身の夢を描き、モチベーションを高めて帰ってきています。
福永 個々のキャリアプランと評価の中でますます成長できるチャンスをつかめるのですね。
宮本 さらにプロフェッショナルとしての成長をバックアップする独自のユニークな制度もあります。T&G オリジナルカフェプランです。
福永 具体的にどのようなことですか。
宮本 社員一人当たり年間8 万円分のポイントが付与されます。そのポイントをプロフェッショナルとしてのスキルを磨くために、個人が自由に使用できる制度です。例えば一流レストランのシェフが講師を行なう外部のフランス料理の講習会への参加や、五つ星ホテルの最高のサービスを体験したりなど、自由にポイントを使用することができます。
福永 いろいろなことが学べるチャンスがありますね。学べるチャンスを提供してくださることでT&G の一員であることに価値と誇りを感じることができるのでしょう。ところで、約1500 人の社員を正等に評価することはとても難しいことではありませんか。個々の施設の支配人との人間関係に左右されてしまう可能性もあるのではないでしょうか。
宮本 そうならないためにも数字を並べるだけの評価はしておりません。社員一人ずつに対して、顧客満足度やチーム貢献度も含めて幹部が半年の成長をコメントし、一人一人の昇給や昇格を話し合う「評価会議」を実施しています。今でも全社員 約100 時間かけて評価会議を行なっています。規模や人数が大きくなっても、一人一人を個別に見るということを大事にしているからです。個々の施設はウェディングプランナー、フラワーコーディネーター、キッチンスタッフ、サービススタッフを含めると20 ~ 30 人前後のスタッフで運営していますので、例えば支配人とどうもうまくいかない、ということもあるでしょう。そうなるとチームにマイナスの空気が流れ、自然と業績も低迷します。業績の低迷は支配人の責任であり、また支配人を管理するエリアマネージャーの責任でもあります。わずかな変化も逃さずに先手を打ち改善していくことが求められます。中には退職を考えている社員もいるでしょう。その気持ちの変化に気がついたら退職をとどめるために即座に動かなければなりません。そこには必ず何らかの原因があります。シェフも含めて皆で作り上げていくチームワークを作り上げていくこと、これが支配人の役目なのです。そのためには支配人の評価だけではなく、さまざまなフィルターを通して一人一人を多面的に評価し、長くT&G で成果を出してもらえる環境を作り上げていくことです。
福永 福利厚生面についてはいかがですか。
宮本 いつも支えてくれる家族を会場に招き、チームの仲間とその家族でステキな時間を過ごす「ファミリーデー」を開催することもあります。費用面で会社から補助金を出しています。成果をきちんと出し、活躍してくれる優秀な人財が、自身のライフステージに沿って活躍できるようにするため、まだまだT & Gでも課題は山積みで、日々制度を進化させています。
福永 しかしウエディングの仕事は夢描いているものとはギャップがあり、なかなか長続きしない現状もあります。
宮本 さまざまな施策を講じることで、キャリアを伸ばしてあげることができます。例えば、自己申告制度や、ジョブローテーション制度があります。専門領域以外で経験を積むことでプランナー以外にも多方面で活躍できるチャンスをつかむことができます。いずれの職種も当社が最終的にお客様へ提供しているのは結婚式であり、心が動かされる、ほかにはない仕事です。チーム一丸となっていい結婚式をたくさん作ること。それがお客さまやスタッフ間の絆となり、絆を大切にすることで働きながら心から楽しめる仕事です。自分たちが提供する結婚式を通して、ご新郎ご新婦やそのご家族、参列された多くの人々の心と人生を豊かにできる、こんなに素晴らしい仕事はありません。目には見えないものですが、これがウエディングの魅力です。それをもっともっと世の中に伝えたいですね。
福永 そうですね。お客さまからの“ありがとう”の一言でどんな苦労も吹っ飛んでしまう、とても感動できる仕事です。社員一人一人の成長にきめ細かくサポートされてきたからこそ、業界トップ企業に躍進されたことが分かりました。本日はありがとうございました。
㈱テイクアンドギヴ・ニーズ
執行役員運営統括本部長
宮本隆志 氏
1975 年東京生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、リーガロイヤルホテル東京入社。2001 年同社中途入社。T&G 直営店第1 号のアーカンジェル代官山の支配人を務めたのち、全国40 店舗以上の立ち上げに携わる。エリアマネージャー、運営統括本部、クリエイティブセンター室長を経て2015 年7 月より現職。
㈱フェイス
代表取締役
福永有利子 氏
レストラン・ゲストハウスのウエディングプランナーから各現場の管理職としてマネジメントを担い、確実に業績を伸ばしてきた。2003 年にウエディングプランナー養成スクール講師をはじめ、06 年より大学にて非常勤講師として教壇に立ち、現在も教鞭を執っている。06 年堂島ホテル婚礼部長に就任、その後08 年同ホテル副総支配人に昇任。09 年には㈱フェイスを設立し、代表取締役に就任。現在は、ホテル・ゲストハウスを主に成約率向上を目的としたトレーニングや集客戦略立案・実践支援などのコンサルティングに加え、ウエディング全般にわたる支援を行なっている。著書・ウエディングプランナーじゃない、アカンのは上司や! 悩める管理職のアメムチ19 の育成術