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第15回 木村滋久のNZワイナリー日記 

第15回「祖父からの贈物」

【月刊HOTERES 2016年06月号】
2016年06月10日(金)
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家族で成し遂げた学士号取得

極度のストレス
 
 半年以上も代理店探しに悩まされていた2009 年、私は事業をしながらワイン醸造・ブドウ栽培学の学士課程を受講していました。「一人前の造り手になるためには、大きな土台になる幅広い知識と経験、そして自分への確固たる自信が必要だ」と、感じていたからです。先が見えない危機感、試験や論文提出に追われるプレッシャーの日々、そして当時まだ2 歳だった息子の子育て、それらのストレスが同時に発生していた環境。今振り返ると、当時の私は極度のストレスを抱えていたと思います。そして気がつくと胃痛に悩まされる日々が続くようになり、数カ月の間に体重が8 キロも減っていました。最終的には、縁あってワインスクール時代の友人が代理店との契約を繋げてくれたのですが、勃発した体調不良とその後も数年間続いた事業と学問の両立のストレスから、私は慢性胃炎を煩うことになってしまったのです。そのときのことは未だ記憶に新しい出来事で、胃炎の症状を感じるたびに「ものを売る」ということの厳しさと大切さを思い出させてくれます。しかしそんな状況を乗り越えながら成し遂げたリンカーン大学の学士号取得は、私の軸になっただけでなく、家族の絆を強めることにもつながった気がしています。


金賞の表彰状

再び訪れた大きな壁
 
 ワイン造りには毎年ハプニングがつきものですが、2015 年は新たな大きな壁に直面した年でもありました。長年の付き合いだった契約畑のオーナーが引退し、未経験者の方がそのビジネスを引き継いだこと、それが問題の始まりでした。最悪なことに、その年はブドウの不出来が原因で、収穫直前に契約を解除せざるを得ない状況に陥ってしまったのです。契約解除が意味することは、その年のソーヴィニヨン・ブランの生産を、諦めなければならないという現実。そして解除の手続きにあたり受けた侮辱、そういった状況下で対等に口論ができない語学の壁と自分の無力さには、心が折れそうでした。そんな中でしたが、周囲のサポートのおかげもあり、奇跡的に2015 年のソーヴィニヨン・ブランを生産することができました。嬉しいことにその「奇跡」とも呼べるワインが、先日シドニーのコンクールで金賞受賞という快挙を成し遂げました。大好きだった祖父の命日にこの知らせが届いたのは、大きな壁を乗り越えた私へ祖父からの贈り物のように感じています。なぜならば「大きな苦しみは大きな楽しみに、大きな不幸は大きな幸運に連なる」、我が家の壁には祖父のそんな書が飾られているからです。

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