公益社団法人 国際観光施設協会 技術委員会 ホテル都市分科会、
株式会社構造計画研究所 構造設計1部 部長
川端 淳 氏
観光施設の耐震化
公益社団法人国際観光施設協会では、さまざまな公益活動の一つとして、観光施設の耐震化の促進にも取り組んでおります。
補強設計について
耐震診断の結果を基に、耐震性能が規定値を満たすように補強設計を行ないます。施設所有者と運営者様方と協議しながら、補強計画の作成を進めます。建物の使い勝手や採光・通風・美観などの機能を極力損なわないように設計します。
補強工法について
耐震補強工法は大きく分類すると図1 のようになります。建物性状や敷地の形状により、さまざまな補強方法があります。機能と費用のバランスを考慮しながらさまざまな工法を検討します。
図1 耐震改修工法の分類 ※国土交通省「マンション耐震化マニュアル」より抜粋
制震補強・免震補強
一般的な耐震補強工法では補強が難しい建物や避難施設などの重要度の高い施設などでは、制震補強や免震補強といった、特殊な補強工法も採用されます。制震補強はオイルダンパーなどの制震装置を建物に組み込み、建物の減衰力を高めることで被害を軽減させます。
免震補強は建物の基礎の下などに免震装置を追加し、建物に入る地震力そのものを低減させます。
オイルダンパーブレースによる制震補強で30% の工事費削減を実現
ホテルアルモニーサンク(旧九州厚生年金会館)は、2008 年に耐震補強を実施しました。オイルダンパーブレースによる制震補強とすることで、補強箇所数を減らし、在来工法に比べて30% の工事費削減を実現しました。また外付け補強にすることで、工事期間中の平常通りの営業継続を実現しました。
あと施工アンカーの施工においてはサイレント工法を採用し、工事中の振動と騒音に配慮しました。
アンボンドブレースによる耐震補強
ホテル椿山荘東京は、タワー棟の耐震補強を2012 年に実施しました。
建築家吉村順三の設計による建築であり、耐震補強計画の作成にあたっては、景観と外観、機能、建物の品格に相応しい改修計画が求められました。
補強設計は、庭園からの景観に配慮し、建物の外観は変更しない計画としました。室内側での補強においては、各階の室内からの庭園の眺望と宴会場機能を損なわない位置に補強部材を 設ける計画としました。
補強材は、一箇所あたりの耐力が在来工法よりも大きい、アンボンドブレースによる耐震補強を行なう設計としました。補強工事においては、ホテルの平常通りの営業継続が可能な計画とし、工事を行ないました。
バットレスによる耐震補強
ダイヤモンドホテルは、耐震補強工事を2016 年4 月末に完了します。
補強計画は、ホテル客室への影響を最小限にするために外側での補強を計画。外壁がプレキャストコンクリートであったことから、外付けのブレース補強とはせず、バットレスを設ける補強としました。
またダイヤモンドホテルは、要緊急安全確認大規模建築物であることから助成金をうけて耐震化事業を実施しました。
要緊急安全確認大規模建築物
3 階建て以上かつ延床面積5000㎡以上のホテル・旅館などは、耐震補強設計・耐震補強工事に国からの直接補助(助成金)を受けることができます。