鹿島建設㈱ 建築設計本部 建築設計統括グループ
グループリーダー 田中敏明氏
営業しながら耐震改修:
居ながらリニューアルのポイント
ホテル・旅館の安全性を高める耐震補強リニューアルは大掛かりな工事となります。今回は、営業を続けながら行なうリニューアルを「居ながら」リニューアルと呼んで、その重要なポイントをご紹介します。
耐震化とバリューアップの
同時リニューアル
開業後は、耐震性のような適法化のほかに、快適性、経済性など諸機能が新築時に比べ低下していくことは避けられません。将来を見据えて、これら諸機能をさらに向上させ、施設の資産価値を高く長期間維持できるバリューアップリニューアル計画が大切です。バリューアップを検討するべき主な要素を図1 にまとめました。
補強計画と同等以上に大切な施工計画
第4 回観光施設メディアラボ(2016.2.19 号掲載)で各種耐震補強工法を紹介しています。居ながらリニューアルを実現するための最適な工法の選定には、施工計画も併せて考慮する必要があります。施工計画も居ながらリニューアル計画の一部と考えています。
建物内部の改修は2 フロアごとに行なわれ、その他はすべて営業継続される場合が一般的です。改修フロアの上階では解体や打設など騒音が比較的大きな工事、その下階では仕上げなど発生騒音が小さい工事が行なわれます。資材の仮置き場の確保や搬出入ルートも営業に影響しますが、施工中の営業可能エリアを最大限にする工夫は、それぞれの施設の特徴と関係者のニーズに合わせて施工計画に組み込みます(図2 参照)。
クレームにならない施工中の
騒音振動対策
居ながらリニューアルで施設関係者が最も留意すべきは施工中に発生する騒音振動です。
工事種別ごとに発生する騒音振動を事前に音出し試験を行ない、関係者で共有することでクレームを少なくすることができます。音出し試験では発生する騒音振動の大きさに応じて、レベル1 ~ 3 に分けて、それぞれ施工時間を決めます。事例を図3 に示します。大きな音が発生するレベル1(赤色)では限られた時間のみ実施する工事、レベル2(黄色)はチェックアウト後の11 時~チェックインの15 時までに行なう工事、レベル3(青色)は音が気にならないため、通常作業の9 時~ 17 時に実施する工事です。
営業を継続しながらの工事期間中は音出し振動レベル1 ~ 3 を色分け表示した日ごとの工程表を共有することも重要です(図4 参照)。このような工程表の確認の打ち合わせが、ホテル・旅館の運営者と施工者間で毎朝催されます。営業状況によっては、施工者はレベル1 および2 の工事を終日控える日を設ける、運営者は連泊の宿泊客は施工エリアから遠い客室に配するなど、それぞれが営業継続のために柔軟な対応も求められます。
外部補強の事例
銀座グランドホテルではV 字型の客室階形状を利用して外部補強を採用し、客室への影響をできるだけ少なくする計画としました。施工中は都心部における資材の搬出入のため、屋上にタワークレーンを仮設置するなどの工夫により客室売り止めを最小化することができました(図6)。
居ながらリニューアルは関係者のご協力のもと、運営・設計・施工が一体になった工夫により実現可能です。