徳江 もちろんです。ところで、「滝の湯」さんは、地球温暖化防止活動を競う「低炭素杯2015」の企業活動部門で、環境大臣賞金賞を受賞なさいましたよね。具体的にはどのような取り組みをなさっていらっしゃるのでしょう。
山口 お食事の残りや、会社の業務から発生するゴミを分別し、生ゴミについては堆肥に、その他のものについては、例えば竹箸については竹搾液を取るなどし、無農薬有機野菜を育て、その野菜をお客様に提供しています。
徳江 いわゆる「循環型農法」を実践なさっていらっしゃるわけですね。どのようなきっかけで、このような試みをするようになられたのでしょうか。
山口 実は私の父(先代:現会長)はもともと銀行出身でして、旅館業に身を投じた際に、旅館とはなんて無駄が多い事業なんだと思ったそうなんです。
徳江 確かに、食べきれないほどの食事を提供せざるをえないなど、他業界から見れば、そう思われるのも仕方ない側面はありますね。
山口 そしてたまたま農場を先々代が所有していたこともあり、休眠状態だったその農場を活用して、ゴミを資源にできないかと考えたのです。
徳江 他業界出身の方と若手経営者、この2 つのキーワードが、まさに今、旅館革新を担っていらっしゃるんですが、先代もそうだったわけですね。
山口 さまざまな試みをするようになったのですが、20 年くらい前から残飯処理をして肥料ができるようになる機械の性能がよくなったことで、実現の第一歩を踏み出せました。
徳江 それがさらに進んで、現在では洗剤や古紙のリサイクル、廃油を活用した再生エネルギーの利用まで行っていらっしゃると。
山口 これには理由があります。やはり20 年くらい前の話ですが、食材に関するトラブルが発生しました。それについて全社的な委員会を設置して色々と学んでいくうちに、今の食材が、いかに厳しく危険な自然環境に置かれているかに気がついたのです。
徳江 土壌や海洋の汚染は、まさに循環してしまいます。
山口 そのために、自然に優しくなることは、お客様にも自分たちにも優しくなることだと感じ、その点を意識した経営をするようになっています。
徳江 そのための努力は、ほんの少しプラスすれば可能ですしね。そしてそれが、美味しく、かつ安心安全な食材の提供にもつながるということですね。
山口 私たちは、「混ぜればゴミ、分ければ資源」というスローガンで表現しています。
徳江 最後に、ぜひ天童温泉の魅力もお願いします。
山口 将棋が有名ではありますが、縁結びの観音様がいらっしゃる若松寺という話題のスポットもあります。とあるタレントさんが良縁に恵まれたことから一気に有名になりました。縁結びを願いつつ、日頃の疲れを癒してください。
徳江 その良縁に恵まれたご夫婦は、私も実はよく知っています。今度、天童にお礼参りに行くよう伝えておきますね。循環型ご縁にしなくちゃ(笑) 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
編集補助:東洋大学徳江研究室
(今回担当:4 年・池田汐里、横田 彩夏)
【本連載はJSPS 科研費26570028 ならびに
26283018 の助成による研究成果でもあります】
撮影:オータパブリケイションズ本社
「ほほえみの宿 滝の湯」
〒994-0025 山形県天童市鎌田本町1-1-30
(023)654-2211
http://www.takinoyu.com/
「ほほえみの空湯舟 つるや」
〒994-0025 山形県天童市鎌田本町2-5-14
(023) 654-2051
http://www.tsuruya-h.co.jp/
山口 敦史(やまぐち あつし)氏
ほほえみの宿 滝の湯 代表取締役社長
日本旅館協会 労務委員長
1994(平成6)年に専修大学経営学部経営学科卒
業後、家業の「滝の湯ホテル(当時)」に入社。2007(平成19)年に専務取締役、2015(平成27)年8 月より代表取締役。2013(平成25)年から2015(平成27)年まで、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長を務める。同年、日本旅館協会労務委員長に就任。
徳江 順一郎(とくえ じゅんいちろう)
東洋大学国際地域学部国際観光学科准教授
上智大学経済学部卒業、早稲田大学大学院商学研究科修了。大学院在学中に起業し、飲食店の経営やマーケティングのコンサルティング、内装デザイン事業などを手がける。2011 年から東洋大学国際地域学部国際観光学科に着任。『ホテルと旅館の事業展開』(創成社)、『ホスピタリティ・マネジメント』(同文舘出版)など、著書・学術論文多数。