2000年代に週刊ホテルレストランで編集委員を務めた、株式会社ミヤマコンサルティンググループ 代表取締役の深山敏郎氏。深山氏は中小企業診断士でありながら、国内ホテルや自動車メーカーなどの人材育成コンサルティングにも携わる。現在はTSA(東京声優・国際アカデミー)国際コミュニケーション学科常勤講師(異文化)など、複数の専門学校や大学でも非常勤講師を務めている。
深山氏は実績や未来ある若者を通して感じている、
1:ホテル・レストランの危機管理の現状と課題、対処法(例)
2:ホテル・レストランのオペレーション・スタンダードの必要性と具体策(例)
3:ホテル・レストランの人材定着の鍵(スタッフ、チーム、組織の「レジリエンス」を高める)
を踏まえて、ホテル業界関係者との対話をもとに、ホテル業界発展のために連載をお届けする。
今回の連載も3話構成となっており、今回第2話をお届けする。取材にあたっては、同ホテル総支配人 藤崎斉氏、副総支配人マーケティング&セールス 八木千登世氏、宿泊支配人及び総支配人室 室長 大谷潤氏の3名に長時間のインタビューにお付き合いいただいた。また、写真はマーケティング&コミュニケーションズ 広報マネージャー 秋保貴子氏にご提供いただいた。
前回は同ホテルのブランドについて詳しく述べてきた。今回は同ホテルの具体的なブランドストーリーについてご説明する。
東京ステーションホテルのブランドストーリー
筆者の印象では企業経営も最近ではストーリーで語ることが多くなった。同ホテルでは毎日のようにブランドを象徴するストーリーが展開されていることに驚いた。
インタビューで知りえた同ホテルのブランドストーリーは数多くあり、以下その一部をご紹介する。
自分たちはいったいどうなりたいのかを問い続ける藤崎氏とその問いに対して必死で応えようというスタッフの間にブランドストーリーが生まれている。
まず、特色のある人材採用及び登用についてご説明する。
人材採用・登用の特徴とブランドストーリー
藤崎氏によると、開業当時から人材採用に関しては、業界経験、特にインターナショナルなホテルチェーンやラグジュアリーホテルでの経験は問わず、人物本位で採用してきたとのこと。例えば、スキー場のリフト係から応募してきたスタッフ、鹿児島県の短大を出て地元ホテルで経験を積んだ後に採用試験にやってきたスタッフなどいろいろだ。Fさんはそうした一人だ。彼女は言葉に鹿児島なまりが抜けず「標準語で話さなければ」というプレッシャーを感じながら面接に訪れた。藤崎氏から「鹿児島弁で構わない。Fさんの強みにすればいい。あなたはあなたらしくしてほしい」と伝えられたとのこと。その言葉を励みにして、ゲストの話す言葉が鹿児島弁だと分かると積極的に鹿児島弁で話しかけて安心してもらう。結果、「また絶対来るから、辞めないでね」という暖かい言葉をゲストが残してくれた。これは地方紙にも紹介された逸話である。
ダイバーシティー・アンド・インクルージョン、あるいはDI&E(ダイバーシティー・インクルージョン・アンド・エクイティ― ここではエクイティ―とは公平性のこと)といった言葉を声高に叫ばずとも、人物本位だと自然にこうした採用や人材の活かし方になってくる。リニューアルオープン当初から根幹にあった考え方であり、今も続いている。
筆者は、太田土之助(おおたとのすけ)氏の著書「ホテルレストランへ最後の忠告」(オータパブリケイションズ)の以下の一節を想い出した。「せんだって米国・ハワイのカウワイ島の「プリンスビル・ホテル」に宿泊したとき、ドアマンはじめ全従業員が、そしてホテルに関係あるゴルフ場のプロショップや受付などで働いている人々までもが、何を頼んでもビッグ・スマイルで親切に頼んだことにベストを尽くしてくれることには驚いた。(中略)総支配人のデビッド・モナハン氏に、全従業員のあのきびきびとした態度について『何か特別な教育を?』と聞いてみた。彼いわく、『幸い、いい人に恵まれました』。そして雇うときの面接試験の印象で、『この人なら』という人を厳選しているという。つまり、面接の段階からホテルの品質管理が始まっているということであろう」(同著P.4より引用)
藤崎氏や八木氏、大谷氏のスタッフへの眼差しは極めて熱い。スタッフを筆者の前で頻繁に褒めるのである。海外からのスタッフ採用も内定しているようで、「とても素晴らしい方が入社してくれる」と大喜びである。
次回は「東京ステーションテルの“もうひとつのブランドストーリー”と、今後の課題」と思われる点を筆者なりにご説明する。
東京ステーションホテル
100年以上の歴史を誇り国内外のお客さまに愛された名門ホテル。ヨーロピアンクラシックを基調とした洗練された空間のなか、記憶に残るひとときをお過ごしいただけます。
受賞歴
・フォーブス・トラベルガイド「ホテル部門」にて2016年から9年連続4つ星獲得
・Small Luxury Hotels of the World™「SLH Awards 2020」にて「INVITED Hotel of the Year」 を受賞 など多数
住所:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1-9-1
電話:03-5220-1111
客室数:150室
開業日:1915年11月2日 (リニューアルオープン 2012年10月3日)
オフィシャルウェブサイト:https://www.tokyostationhotel.jp/
運営会社:日本ホテル株式会社
設立:1981(昭和56)年11月26日
以上、同ホテルWebより引用