2000年代に週刊ホテルレストランで編集委員を務めた、株式会社ミヤマコンサルティンググループ　代表取締役の深山敏郎氏。深山氏は中小企業診断士でありながら、国内ホテルや自動車メーカーなどの人材育成コンサルティングにも携わる。現在はTSA（東京声優・国際アカデミー）国際コミュニケーション学科常勤講師（異文化）など、複数の専門学校や大学でも非常勤講師を務めている。

深山氏は実績や未来ある若者を通して感じている、
１：ホテル・レストランの危機管理の現状と課題、対処法（例）
２：ホテル・レストランのオペレーション・スタンダードの必要性と具体策（例）
３：ホテル・レストランの人材定着の鍵（スタッフ、チーム、組織の「レジリエンス」を高める）
を踏まえて、ホテル業界関係者との対話をもとに、ホテル業界発展のために連載をお届けする。
 

　今回の連載も3話構成となっており、同ホテル総支配人 藤崎斉氏、副総支配人マーケティング＆セールス 八木千登世氏、宿泊支配人及び総支配人室 室長 大谷潤氏の3名に長時間のインタビューにお付き合いいただいた。また、写真はマーケティング＆コミュニケーションズ 広報マネージャー 秋保貴子氏にご提供いただいた。

　東京ステーションホテルはもともと、1914年（大正3年）東京駅開業の翌年、1915年（大正4年）に開業したホテルである。その後、1923年（大正12年）の関東大震災（駅舎・ホテルは特に被害なし）、そして第二次世界大戦の空襲による被害・復旧などを経験してきた。

　2003年（平成15年）には東京駅丸の内駅舎が国指定の「重要文化財」に指定され、駅舎の保存・復原工事のための一時休館の後、2012年にリニューアルした上でグランドオープンを果たした。「文化財の中に存在するホテルという性質上、使い続けることに価値がある」と藤崎氏はいう。

　同ホテルは、JR東日本グループの日本ホテル株式会社が運営しており、その中でも代表的な存在の一つである。同ホテルは”伝統あるホテル”として名高いが、同ホテルのロビーラウンジをたびたび訪れた筆者の印象や、今回上記3名へのインタビューで得た知見は、単に伝統というカテゴリーには納まりきらないと考えられる。
 

新しい伝統を創るという気概

　

　リニューアルオープンにあたって藤崎氏が、このホテルに宿る伝統を尊重しつつもまったく新しい「ゲストが語り継ぐ、輝き続けるホテル」を創りあげようとしていることが伝わってきた。もともと藤崎氏はインターナショナルホテルチェーンの現場でマネジメントを経験し、日本のエアライン系ホテルでは本部役員としての経験を積んできた。
 
　インタビュー中、何度も「100年後」という言葉が藤崎氏から語られた。これまでの約100年間の伝統への感謝とともに、更にゲストから愛されるホテルにしていこうという気概が感じられた。
 
　因みにインタビューでは、他業界の話がいろいろと出てきた。自動車業界、航空業界、アパレル業界などの話から、地球温暖化の話まで出てきて、コンサルタントである筆者と大いに語り合う場ともなった。また日本が誇る名経営者たちの経営姿勢などさまざまな話題を提供してくれた。
 
　ホテル業界という枠を超えて幅広く能動的に学習していることが伝わってきた。だからこそ、スタッフもリーダーシップを受け入れてくれるのであろう。
 

　

”Our Promise”という理念と、その中核をなす”Vision”

　藤崎氏がスタッフとともに作りあげてきたビジョンは以下のとおり。同ホテルの理念をまとめて、「Our Promise」と呼んでおり、そのトップにあるVision＝夢・意志は以下である。

「この先の100年も東京の中心で輝き続け、語り継がれるホテルであろう。先人達の積み重ねとこのヘリテージに感謝して。」
 

　このVisionから、過去100年余の伝統への敬意をあらわすとともに、次の100年への思いをはせることを絶えず念頭に置いていることが分かる。藤崎氏や八木氏、大谷氏の口癖の一つに、「100年後も存在し続ける必要があり、そのために今、何が出来るかを真剣に考えている」がある。
 
　伝統というものは日々革新を必要とすることを学ぶことができた。
 
　次回は具体的なブランドストーリーについてご説明する。