今後のブランドコンセプト
同ホテルをめぐる環境は大きく変化した。コロナ禍が一応の終息をみせ、北陸新幹線が2024年3月に金沢~敦賀の延伸。福井は東京から最短で2時間51分となった。平日の宿泊ゲスト比率は、既に観光寄りになった。今後のブランドコンセプトを社長と常務に尋ねてみた。
「当ホテルの場合、旅館からビジネスホテルさらに観光ホテルへとコンセプトを変え、そのコンセプトに基づきブランディングを図って来た経緯がります。
今後は、「より福井国際観光ホテル リバージュアケボノであること」をビジョンとして進化を続けてゆきます。
すなわち、
福井 らしさを感じるホテルになる。
国際 インバウンドに対応した国際標準的ホテルになる。
観光ホテル より観光客に適したホテルになる。
リバージュ 川沿いの景観の特徴をより活かしたホテルになる。
アケボノ 屋号に因み、素敵な朝を迎えられるホテルになる。」
とのこと。
福井らしさをより鮮明にし、なおかつ今後増加が予測されるインバウンド需要に対応した国際標準の観光ホテルを目指すという意気込みだ。
常務中心にDX化とブランドの高付加価値化を
こうしたブランドコンセプトを広めていくのは、社長から常務に託された役割だ。常務の久能氏は大学で経営学を学び、東京YMCA国際ホテル専門学校のホテル旅館経営学科で学ぶ。都内のホテル勤務を経て同ホテル勤務。宿屋大学のPHM(プロフェッショナルホテルマネジャー)養成講座ではホテル経営を総合的に学んだ。
常務の現在の役割は、DX化の推進によるムダの排除である。これまで学んだ手法を応用し、また、ソフトウェアを用いて合理的な経営手法を追求している。
社内SNS(Chatwork)を主にフロントとレストランのコミュニケーションに利用。その他、清掃関連の連絡など、社内で飛び交う情報を1か所に集約し、かつそれを見える化出来たことが最大のメリット、と常務はいう。
FB(料飲)の予約にはTable Checkを活用している。旧来はレストランの予約をフロントで受注し、レストランにダムベーターで配送していたそうだが、紙でのやり取りでは、データの記録と共有に手間がかかっていた。そうした時間と労力のムダを大幅に削減できたとのこと。
オペレーションを抜本的に変える苦労
オペレーションを抜本的に変更する時に一番の障害になったのは、ITに不慣れな世代のスタッフの理解であったとのこと。対策として行ったのは、現状の問題点と、DX化推進のメリットを丁寧に説明の2点という。
賛同を得た結果、一日当たりの労働時間の縮減、年間休暇数の増加を実現した。現在では、曜日ごとのシフトの平準化を目指している。
インタビュアーコメント
一般的に「オペレーション」というと、①基準の明確化、②プロセスの明確化、③基準やプロセスをトレーニングで徹底するという流れである。もちろん、そのブランドらしい内容であることが望まれる。しかし、これがすべての場合に有効であるとは限らない。地方の独立系ホテルには別の道があるのではないか。
ホテル業界は一般に労働集約型であり、大規模メーカーなどの資本集約型とは収益構造が異なる。そのため、労働分配率(≒人件費/粗利額 %)が他の業種・業態と比較して高めになる。また、付加価値生産性(≒粗利額/従業員数)を向上するには、少数精鋭のオペレーションが中心となる。
山口周氏が「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」(光文社新書)という書籍の中で、経営には3つの要素が必要であると言っている。「アート」・「サイエンス」・「クラフト」である。
これまでの日本のホテル業界は、あくまで筆者の感想であるが、クラフト中心で現場が職人肌、そして部門が縦割り・上下関係が厳格という傾向があった。そうした中で、同ホテルでは、現状では社長が卓越したアートの力を発揮しており、常務はそれを支えるサイエンスの部分でDX中心の業務改善によって支えている。今後は観光客中心のホテルもコモディティ化(一般化)する可能性がある。常務中心にどのように今後のブランドを際立たせるのか期待したい。