日本酒ブランド「SAKE HUNDRED(サケハンドレッド)」は、2023年5月15日(月)より、氷温熟成13年 ヴィンテージ日本酒『礼比(らいひ)』を数量限定で発売する。発売に先駆け、試飲の機会を頂いたので、『礼比』の魅力をレポートしたい。
未来に必要な新しい市場を切り拓く
SAKE HUNDREDは、最高峰の日本酒で、世界中の人々の『心を満たし、人生を彩る』ことをブランドパーパス(存在意義)として掲げている。高価格の日本酒ブランドではなく、特別な人の特別な時間を彩る「グローバルラグジュアリーブランド」を目指している。そのためには、圧倒的な品質を誇る商品力が重要になる。その商品力をラグジュアリーブランドとしてまとめ上げ、認知や連想、態度、愛着を構築していく。
SAKE HUNDREDのブランドオーナーである株式会社Clear代表取締役CEOの生駒氏は、酒好きが高じて日本酒の業界にベンチャーとして参入した。Clearには切り拓くという意味があり、未来に必要な新しい市場を創っていくことを目指している。
今回、新たにSAKE HUNDREDのラインナップに『礼比』が加わることとなった。『礼比』という商品名には、”感謝・敬意・賞賛の想いを伝える、比類なき贈り物”という意味が込めてられている。熟成酒における新たな価値を付加した『礼比』を以下で紐解いていきたい。
『礼比』をシャンパーニュで考える
『礼比』を紐解くカギは3点ある。長期氷温熟成、樽熟成、累乗仕込みだ。-5℃の氷温環境で13年熟成を経ているだけでなく、そのうち3年はフレンチオーク樽で熟成が行われている。仕込み水の一部に日本酒を使用する累乗仕込みも併せている。この3つが合わさるとどうなるのか。実は、これはソムリエにとって非常に馴染みが深いキーワードで理解することができる。それはシャンパーニュの「リザーブワインとドサージュ」である。
ワインを含む醸造の世界では、基本的には品質の均一化も含めて、「ブレンド」が行われることが一般的だ。ボルドーでもメルロー比率が多いのか、カベルネ比率が多いのかで味わいが異なるように、ブレンドというのは品質だけでなくスタイルにも大きく影響を与える。そんな中、ブレンドが特に重要な技術である産地がある。それがシャンパーニュだ。
シャンパーニュは1次発酵の後にアッサンブラージュを経て2次発酵を行い、最後に澱抜きと、目減り分の調整を行う。このアッサンブラージュでは、様々な原酒がブレンドされる。そうした原酒でスタイルを決める要素として注目されるのが、MLFの有無と樽の有無だ。MLFは酸味の出方が異なり、若ければシャープネスに影響を及ぼす。樽の有無は、厚みやコクといった奥行きに影響を与える。
そして2次発酵で泡が溶け込み、澱のデグラデーションを経て分子量の大きなタンパク質から分子量の小さなアミノ酸がリリースされ始める。瓶底に溜まった澱は取り除かれ、減った分の調整を行う。このドサージュの際に、最終的な甘さも調整される。
この20年ほどで、澱抜きの日付が記載されるシャンパーニュが増えたが、それには理由がある。ドサージュのあるなしは甘さが変化するだけでなく、糖とアミノ酸などの成分が反応しあうかにも影響を与える。俗にメイラード反応と呼ばれるアミノカルボニル反応が進むかは、反応の素となる糖とアミノ酸の濃度、液体の温度、振動といったことが関係してくる。従って、熟成由来のプリンのような甘く香ばしいコクが欲しい場合には、この反応が十分に進んでいるであろうものを選択することとなる。その指標として、澱抜き日は活用が可能だ。澱抜き日から日が浅いものはフレッシュに感じられる可能性が高いのだ。
こうしたシャンパーニュの事例を基にして『礼比』を見てみると、長期氷温熟成により低温状態では分子の動きが鈍く、アミノカルボニル反応の進行が極めて遅いことが考えられる。従って、従来の熟成古酒のようないわゆる「老香(ひねか)」の発生はなく、フレッシュさが残っている可能性が浮かび上がってくる。そこに樽熟成、累乗仕込みが合わさることで、樽による香ばしさとコクによる奥行き、累乗仕込みによるグリセリン様のとろみを伴った甘味、ジューシーさを思わせるリンゴ酸といったキーワードが加わってくる。樽使用のリザーブワインとドサージュのような関係に置き換えて捉えることができる。
このシャンパーニュの文脈に乗せる説明は試飲をして感じたことが発端となっている。グローバル、特に海外の顧客に説明をする際、ワインという言語の力を借りることは有効である。日本酒独特のナラティブを押し付けることなく、日本酒への親和性をワインの言語を用いて説明することで、認知的な負荷を減らすことができると考えている。実際に飲む機会があれば、是非一度試して欲しい。恐らく、日本酒におけるリサーブのブレンドという視点を感じることができると思う。
【試飲コメント】
色合いは淡いレモン、粘性を感じさせる脚が見られる。
香りはクリーン。醸造や熟成での欠陥は確認できず、ドライフルーツのような香り、パンや酵母、吟醸香に、ヒエリなどの香り米に似た米を感じさせる香りがある。僅かに新樽由来のような香りも感じられる。ラムレーズンやバーボンを想起させるような香りも感じられる。リンゴ酸由来なのか、ほんのりとリンゴ果汁を思わせるニュアンスもある。
口当たりは滑らかで重みがある。酸はやや穏やかだが、甘味とのバランスが取れておりとろりとしたテクスチャーを生んでいる。粘度というよりは密度を感じさせる味わいで、香りにあるコンポーネントが流動性のある液体の中にギュッと濃縮されている。原料である米を感じさせながら、樽由来の奥行、累乗仕込みによる甘さと醸造熟成によるハーモニーを多層的に感じることができる。
このお酒は、累乗仕込みがポイントだと感じる。氷冷もだが、全体のテクスチャーや個性を出すのに累乗仕込みが良い味を出している。単なる長期熟成+樽化粧ではない面白さが加わっている点を大きく評価したい。
日本酒の可能性に挑戦し続ける
『礼比』は群馬県にある永井酒造が長年温め続けてきた貴重な日本酒が使われている。永井酒造6代目蔵元の永井則吉氏は、20数年に渡り日本酒の価値向上に挑戦し続けてきた。近年ようやく、日本酒も高単価市場が拓けて来たが、まだまだ可能性がある。
そうした意味で、『礼比』はソムリエにこそ手に取って欲しい日本酒だと感じる。上記で説明したシャンパーニュからの流れでシームレスに用いることも可能だろう。何より、飲み手となるワイン愛好家にとっても、新しい発見を提供できるのではないだろうか。
しかし、その一方で課題も感じられる。『礼比』をシャンパーニュの文脈で捉えた際に、フラッグシップに当たるため、エントリークラスやミディアムレンジの商品が見当たらないことが難点として挙げられる。ラグジュアリーという頂点を際立たせるためには、裾野(市場)を広げることも併せて重要になる。氷温長期熟成、樽の使用、累乗仕込みという3つのバランスを上手く調整した流通(量)も検討しなくてはならないではないだろうか。
飲み方についても、『礼比』は時の進みがゆっくりであると捉えることができる。であれば、生まれ年のワインを楽しむように、自分の息子や娘が生まれた際に、同じ時の歩みを一つの鍵として飲み比べる楽しみも可能になる。熟成の早いもの(高温で熟成されるラムとか)、常温で熟成させるもの(ワインとか)、そしてゆっくりと極低温で熟成させるもの(『礼比』)。そうした同じ「時」の過ごし方の違いと自分を重ねるという楽しみ方も出来ると感じる。
そうした意味で、『礼比』は日本酒のブレンドや熟成という土壌に新しい「型」を提案したとも言える。こうした「型」が生まれることにより、今述べたように、エントリーなりミディアムといった参入も増える可能性が生まれた。こうした新しい日本酒の可能性や価値がベンチャーにより生み出されるのは業界としても喜ばしいことだと思う。他の商品を含め、今後のSAKE HUNDREDの活躍に期待したい。
氷温が贈る、至香の一滴
礼比|RAIHI
Cherished Sake
・製造者:永井酒造(群馬)
・原料米:山田錦・国産米
・精米歩合:60%
・アルコール分:16.3%
・日本酒度:-46
・酸度:2.5
・アミノ酸度:2.6
・火入れ:3回
・内容量:500ml
・価格:¥165,000
・販売開始日:2023年5月15日(金) 18:00
・商品ページURL:https://jp.sake100.com/products/raihi
担当:小川