本記事は、3月30日(木)に六本木にあるGrand Hyatt Tokyoで行われた「シャンパーニュ・ラリエ テイスティングセミナー」のレポートである。セラーマスターであるドミニク・ドゥマルヴィル氏が来日し、ラリエの哲学とスタイルと共に、その魅力を深堀するセミナーが行われた。通訳はMW研修生の、小原陽子氏が担当した。
シャンパーニュ
ラリエの紹介の前に、少しシャンパーニュについて触れておきたい。読者の中にも「シャンパーニュほど売りやすく、また売るのが難しい産地はない」と思われてる方もいるのではないだろうか。例えば、レストランでも「シャンパーニュかスパークリング」という提案の仕方であったりはよくグラスのリストを見ていてもあることだと思う。しかし、「なぜそのシャンパーニュを提案するのか」については非常に苦労をする。もちろん、ハウスごとの違いやテロワールの差、醸造や熟成の差など千差万別であるが、顧客がそれを気にするか、もしくは、理解するかは別の問題となる。シャンパーニュはそれが他の産地に比べて非常に苦労をする産地だと感じている。そこには、シャンパーニュそのものに込められている記号的な意味の恩恵と課題が混在してある。
日本はハイボールなど他の酒類飲料を含めて、シュワシュワしている発砲系の割合が多い。従って、シャンパーニュの活躍の機会も多く、世界でも有数の消費国として認知されている。だからこそ、しっかりと手で売っていくためには、生産の背景だけでなく、「なぜこの場面で、このシャンパーニュなのか」をきちんと正当化できるような心構えが必要になってくる。それは希少性や料理とのマリアージュだけでなく、生産者の哲学や歴史も関わってくる。もちろん普段から、そうしたことを意識して選定をされている読者も多いだろうとは思うが、その一方で銘柄のよく分からない安いシャンパーニュの引き合いが多いことも確かである。
現在フランスでは、シャンパーニュをはじめ、サステイナブルな農業への注力がなされている(興味のある読者は、安田(2020)など政策面からの解説をしている論文をあたって欲しい)。ホテルを含む料飲業界で言えば、例えば、ルレ・エ・シャトーはサステイナビリティ・レポートを出している。自分たちを含むエコシステムをどう考えるかということは、今後どの業界でも必要な視点になっており、記号的な消費の先を見据えた対応が、コロナ前よりすでに始まっている状況だ。
Steve Charters MWも指摘しているが、過去の歴史を振り買ってみても、シャンパーニュは経済状況の影響を受けやすい。持続可能な発展は、環境だけではなく、経済としても続けていけるだけの賃金であったり販売体制であったりも含まれる。ファンをつくるためには、顧客とのコミュニケーションをどのようにデザインしていくのかも課題となる。小さな作り手は大手よりもストーリーも映えるものがあるかも知れない。しかし、大手だからといって品質やスタイルが劣るわけではない。きちんとストーリーを読み解き、自社に適した本質とは何かを汲み取るような姿勢が重要だと感じる。
前置きが少し長くなったが、ラリエの哲学とそのスタイルを紹介していきたい。ポイントは「ベース・ワイン」と「クラフトマンシップ」にあると感じる。