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【レポート】1夜限りのゲストバーテンディングイベントで酔いしれるカンパリの世界

2022年12月23日(金)
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2022年12月22日(木)ザ・リッツ・カールトン東京にて、CAMPARI ブランドアンバサダーを務める小川尚人氏を招いた1夜限りのゲストバーテンディングイベント『バーテンダー テイクオーバー 第二弾』が行われた。
 
本記事はそのレポートである。カクテルにおけるビターズと国際感覚という視点から様子をお伝えしたい。(カクテルの様子への飛ばし読みはこちら。)

「Amaro?」
ワインの買い付けでイタリアに行くと、食後に「Amaro?」と聞かれることがよくあった。実にイタリアらしい文化を感じる瞬間だ。良薬は口に苦しとよく言われるが、お酒の世界でも苦味を持つものは多く、例えばウニクムのようなものから普段飲まれるビールまで様々だ。
 
苦味とは何かという生理学的な話はさておき、人が苦味に対して敏感なのは一種の防衛であることがよくいわれている。植物界には窒素を含有するアルカロイドや水酸基を有するフェノールのような生理活性の高い化合物を有する植物が多く存在する。苦味や渋味に対する感覚の発達は、こうした生理活性の高い化合物を取りすぎないようにするためだという考えだ。
 
パラケルススが毒になるか薬になるかは量で決まると説明したように、良薬は口に苦しの本質はここにある。そして、そうした生理活性の高い化合物を抽出するのにアルコールが用いられてきた。抽出されるものは生理活性物質だけでなく、他の芳香物質や色素も同様に抽出される。それぞれの妙薬が独特の香りや色を持つのはそのためだ。

「カクテルとビターズ」
カクテルの歴史からみても苦味は重要な要素であることが知られている。Brad Thomas(2011)によれば、ニューヨーク州ハドソン地区で発行された1806年5月13日付の新聞Balance and Columbian Repositoryに「カクテルとは、あらゆる種類の蒸留酒、砂糖、水、そしてビターズからなる刺激的なお酒」と記載されている。
 
苦味や渋味というものは、味わいに奥行きや輪郭、骨格を出すのに寄与してくれるため、立体的な味わい求める場合には重要な要素となる。しかし、過度になれば苦味だけでなく硬い印象に変わり味わいや口当たりを損ねる。加えて、苦味だけの要素ではなく香りや色といった他の要素も加味されるため、材料とのバランスによっても調整が難しい。
 
ビターズを制するものは、カクテルを制すではないが、縁の下の力持ちともいえるビターズをうまく活用できるかは、その制作者のスキルや感性によるところが大きい。そんなビターズの中で、一際印象的な色合いでカクテルベースとしても世界中で愛されているお酒がある。カンパリだ。

「カンパリ」
カンパリは、印象的な鮮やかな赤色に加えて、オレンジやハーブの豊かな香り、そして独特のほろ苦さがある。以前、イタリアのシルミオーネで沈みゆく夕日を見ながら飲んだカンパリは、イタリアにいるという特別な印象を添えてくれた最高のスパイスだった。英国の飲料専門誌「Drinks International」が選ぶ「The World’s Best Selling Classic Cocktails 2022」で、カンパリを使った代表的なカクテル「ネグローニ」が世界第1位を獲得したことからもその人気が伺える。
 
2022年12月22日(木)ザ・リッツ・カールトン東京にて、CAMPARI ブランドアンバサダーを務める小川尚人氏を招いた1夜限りのゲストバーテンディングイベント『バーテンダー テイクオーバー 第二弾』が行われた。小川氏は、CAMPARI Cocktail Competition Asia 2018で日本チャンピオンとなり、その後Campari Groupの日本におけるオフィシャル・ブランドアンバサダーとして活動をスタートしている。2022年の夏には、チャールズ・シューマン氏の「シューマンズ バー」(ドイツ・ミュンヘン)にゲストバーテンダーとして招待されるなど国際的な活動も行っている。
 
今回は、そのイベントで提供された5つのカクテルのうち、3つをレポートしたい。

キーワードは①国際感覚、②ドリンカビリティ(drinkability)、③シミラリティ(similarity)とセンス・オブ・ワンダー(sense of wonder)だ。下記、元流通業者から見た試飲コメントだが、何かの参考になれば幸いだ。

Eau de Parfum NEGRONIで感じる「国際感覚」



「ネグローニ」のツイスト。このカクテルを飲んで初めに思ったのは、ヨーロッパ的だということだ。お酒を飲む(もしくは評価)する際に、スタイルで判断されることは日本では少ない。例えば、ワインを例に挙げると、品種や国で陳列されることはあっても、スタイルで区分されることは稀である。あっても、スパークリングや甘口といった程度だ。
 
このカクテルは、柑橘の香り方がすごくヨーロッパ的だ感じた。例えば、フィレンツェのホテルで用いられるアメニティでトスカーナぽさを感じたりするように、柑橘、特にベルガモットのトーンが全体の中でとてもヨーロッパ的に感じる。基調となる柑橘のトーンを引き延ばすお茶が浸漬されたジンも一役買っている。ディルを含めて、ほのかにハーバルなニュアンスが格調高い品の良さを演出しており、洗練されたヨーロッパのスタイルが想起される。そして、その中にお香のようにも感じるほうじ茶のニュアンスが中盤から顔を見せてくる。こちらはオリエントの雰囲気があり、苦味と共に中盤以降の主旋律となっていく。
 
香りも味も過度ではなくバランスが取れているのは評価として高いのは言うまでもないが、このカクテルの良さは国際感覚にある。飲んだ印象として、飲んで貰う対象が国内ではなく、海外を向いていると感じた。しかし、こうした国際感覚を磨くのは難しい。感度の高いバーテンダーであれば、imbibeなどを見ているかも知れないが、情報や知識ではなく感覚なのだ。
 
先日、未輸入のドイツ産スピリッツを評価する機会に恵まれた。そこで出ていたジンが面白く、ピンクジンはイタリアを思わせ、よりウッディーなスタイルのジンはドイツを思わせる香りであった。感覚であるが、同じような経験をした者には伝わる感覚がある。幸い、食に関しては様々な食材が日本では手に入る。食以外でも、例えば、海外産のボディソープや石鹸を使ってみると驚くほど香りに対しての感覚が違うことがわかる。身近にあるもでも、そうした国際感覚は養えるので、インバウンドが期待される今日、語学や態度だけでなく、香りや雰囲気といった可視化しにくいぽさを磨くようにする必要があるかもしれない。

Ms.Americanaで学ぶ​「ドリンカビリティ(drinkability)」



人気カクテル「アメリカーノ」のツイスト。どこか懐かしいアメリカの駄菓子のような味わいとの説明がなされていたが、ドクターペッパーのような味わいといえば伝わるだろうか。アメリカンチェリーの濃く甘く熟した赤果実の香りに、シロップが駄菓子のようなニュアンスを醸し出している。さながら、駄菓子屋にあったチューペットやこんにゃくゼリーを思わせる香りだ。酸味と甘みのバランスが良いうえに、炭酸がシュワシュワ小気味よく味わいにアクセントとフレッシュネスを加える。ほんのりと輪郭にあるアブサンがなんともいい演出をしている。アブサンのあるなしでこのカクテルの奥行が違うのだろう。そして華やかな香りを下支えするベース音の様に、余韻にカンパリのほろりとした苦味が顔を出す。このさりげない苦味が、カクテルを甘いだけでダレさせない重要な役割を果たしている。
 
このカクテルの良さは何より飲みやすさにある。親しみやすい味わいだけでなく、飲んでいて疲れないのだ。だから、すぐに飲めてしまう。このカクテルであれば、お酒に強くない方も、お酒を飲む方も自身の体調や飲酒量に合わせてオーダーすることが可能となる。BLIC(Balance, Length, Intensity, Complexity)に代表されるようなコンポーネントの要素構築には注目されるが、ドリンカビリティという視点は欠けていることが多いと感じる。Being soberではないが、飲み疲れしないという点は今後重要になると感じている。

Mi-To(Milan to Tokyo)で感じる「シミラリティ(similarity)とセンス・オブ・ワンダー(sense of wonder)」



カンパリを使った最古のカクテル「Mi-To(Milan Torino)」のツイスト。今回提供されていた5種類の中では、一番クラシックさを感じたカクテルだ。このカクテルは親近感と上手く伝えられない不思議な感覚が体現されている。
 
まず、外観を見てほしい。夕焼けに映える逆さ富士のような印象を受けないだろか。近年、写真を撮ることに夢中で、こうした情景を感じさせる時間が失われているように感じる。大きなグラスに映える姿は、とても日本的に映る。
 
味わいはさながら琴の音を思わせ、一粒一粒の音が響くように材料の要素が順々に香る。透き通ったリンゴの果汁、少しリンゴあめを思わせるキャンディぽさとカンパリのビターなほろ苦さがマッチしている。リンゴの香りに華を添えるように舞う紫蘇が桜のような日本の雰囲気を醸し出し、ピリッと胡椒のアクセント、余韻にはうっすらと香るジャスミン、アプリコットが顔を覗かせる。Ms.Americanaとは対照的に、カンパリの味わいをしっかりと感じる大人びた印象がある。
 
このカクテルは、説明なしに自分で感じ取る楽しさがある。日本らしさを感じさせるけど、桜であったりという分かりやすい日本らしさではない。でも、我々にはすごく親しみがある。だけど、なんだろう、何が入っているのだろう、と飲み手の想像を掻き立ててくれる。親近感があるからこそ、なんだろうに繋がる。ある意味、Eau de Parfum NEGRONIが海外むけであれば、このMi-To(Milan to Tokyo)は日本人に向けたものと捉えても良いかもしれない。カンパリの中で日本を構成する。このカクテルは、海外の方だけでなく、日本の飲み手にも、日本の新しい一面を感じさせてくれるかもしれない。
 
「交友関係もタレントのひとつ」



こうした試みが行えるのも、ザ・リッツ・カールトン東京 「ザ・バー」ヘッドバーテンダーである和田健太郎氏のタレントによるところが大きい。和田氏も、「ザ・シーバスマスターズ2018」を始め、数々の世界大会に日本代表として出場し優勝した実績を持つ。今回の小川氏も、和田氏の交友関係によるところがある。
 
今回は1夜限りということもあり、開場間もなく満席となった。何より印象的だったのが、若い方々の姿であった。幸いにも、ザ・リッツ・カールトン東京に席を用意頂き、貴重な体験をすることができた。機会があれば、Campari Groupの日本におけるオフィシャル・ブランドアンバサダーとして活動している小川氏を通じて、是非ビターの持つ奥深さを感じてほしい。

【参考文献】
Brad Thomas Parsons (2011), Bitters: A Spirited History of a Classic Cure-All, with Cocktails, Recipes, and Formulas, Ten Speed Press

担当:小川

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