イタリアは国土もワインも幅広い。リーズナブルなデイリーワインに親しむのもいいが、イタリアワインの奥行きにもぜひ触れておきたいものだ。
ブーツの形をしたカルチョの国イタリアの、そのつま先が触れようとしている大きな島をシチリアと呼び、ここは南イタリアを代表する優良なワイン産地だ。北西に州都パレルモがあり、東部には第二の都市カターニアがヨーロッパ最大の活火山、エトナに抱かれる。
シチリアでも近年、その名声を上げているのがエトナのワインであり、中でも操業間もなくからワインガイドで最高評価を受けているワイナリー「トルナトーレ」だ。
エトナ火山周辺ワインへの渇望
量より質に転換したシチリアのワイン産業でも、近年のエトナワインは特に国外からの期待が高まっているという。活発な火山活動はミネラル分豊かな土壌を育み、ワインに陰影をもたらす。1000mに及ぶ標高の高さゆえの寒暖差はワインの輪郭をシャープにし、この地を代表する土着品種はイタリア内外の注目の的だ。
1995 年に日本人で初めてのイタリアプロフェッショナルソムリエ資格を取得、イタリアワインに関する著書を多く持つ林茂氏が代表を務める㈱ソロイタリアは、「トルナトーレ」の魅力を伝えるプレゼンテーションランチをリストランテ アクアパッツァ(東京・南青山)で昨年12月に開催した。
「トルナトーレ」は1865年に創業したワイナリーで、長らく栽培・醸造したブドウやワインを売る形態をとっていたが、現オーナーのフランチェスコ・トルナトーレ氏は自社で瓶詰めしたワインを市場に送り出すことを胸に、エトナの農園を買い広げてきた。通信事業で成功したフランチェスコ氏の背中を押したのが、旧友のディエゴ・プラネタ氏。「プラネタ」社を興してシチリアワイン・ブームの火付け役となった人物だ。プラネタ氏から紹介されたエノロゴ(醸造家)、ビチェンツォ・バンビナ氏は「トルナトーレ」のラベルに箔を付けた。
バンビナ氏と25年ほど前から親交のある林氏は「若いころから優秀な醸造家だった。オーナーが買い広げた畑とブドウそれぞれの機微をうまくワインに反映させているのだろう」と評する。実際に、イタリアで最も権威あるワイン評価本『ガンベロロッソ』の2018年版に初登場した「エトナ ロッソ 2015年」は最高評価の「トレ・ビッキエーリ」を獲得。かつてシチリアの銘醸ワイナリー「ドンナフガータ」の醸造責任者を務め、コンサルタントとしてシチリアワインの評価を引き上げたバンビナ氏の実力は、その後も次々と最高評価を得て、今や“エトナの宝石”とも称される存在だ。
アクアパッツァの日髙良実シェフによるシチリア料理とのペアリング
プレゼンテーションランチでは、アクアパッツァの日髙良実シェフによるシチリア色豊かな料理に白2種類とロゼ、赤2種類のエトナDOCをお披露目。「カツオのたたき シチリア風」に合わせて供された「エトナ ビアンコ DOC 2020」と「“ピエトラリッツォ” エトナ ビアンコ DOC 2019」はいずれもカリカンテ種100%でエトナを象徴するミネラル感と果実味が心地よい。一つの畑で生るブドウから醸した後者は、大樽で5カ月の熟成を施した芳香と質感が心地よく、トレ・ビッキエーリ獲得ワインであることにうなずける。
2皿目のパスタ「マグロのラグーソース リガトーニ」には新商品のロゼ「エトナ ロザート DOC 2019」を。果実味豊かで、酸味のしっかりと効いたシャープさが印象的だ。澱とともに3カ月熟成したことにより旨みも感じられる。メイン料理となる「ファルソマグロ」には赤ワイン「エトナ ロッソ DOC 2018」と新商品として「“ピエトラリッツォ” エトナ ロッソ DOC 2017」が紹介された。ネレッロ・マスカレーゼに少量のネレッロ・カプッチョをブレンドした果実味を楽しめる前者と、大樽で1年、さらに大樽とコンクリートで1年の熟成を施し、ブレンドしたネレッロ・マスカレーゼ100%は華やかさとしなやかさを併せ持ち、大人の魅力を放っている。
左から、「エトナ ビアンコ DOC 2020」「“ピエトラリッツォ” エトナ ビアンコ DOC 2019」「エトナ ロザート DOC 2019」「エトナ ロッソ DOC 2018」「“ピエトラリッツォ” エトナ ロッソ DOC 2017」
「標高が1000mにも及べばシチリアでも冬は寒く、1ha当たり3~4トンという収穫量であることから生産量も多くありません。ただ、火山性土壌独特の味わいを持つ『ボルカニックワイン』の人気も後押しして、日本だけでなく欧米でも人気があるエトナは価格が上がっても売れ続けています。
かつては地中海の牧草地であり、バイキングからアラブ、アフリカも入り乱れての奪い合いの場だったシチリアは、複雑に絡みこの島ならではの食文化が面白いのです。再びワインが期待されているのも必然かもしれません」
林氏はそう語りながらこの2年あまり訪れることができていないシチリアをなつかしみ、
「ネレッロ・マスカレーゼばかりでなく、今はピノ・ネッロ(ピノノワール)を植えているところも増えています。ピノ・ネッロ100%のスパークリングを造ろうとしている生産者も表われていますので、新しい楽しみもありますね」と付け加えた。
南北に広く、品種も多様で難解と思われがちなイタリアだが、ワインだけでなく景観や建築、文化と併せて産地を一つずつひも解いていくと、身近なものに感じられるのもこの国の魅力。急先鋒、エトナにシチリアワインの変化の風を感じてみると良いだろう。
ソロイタリア代表の林茂氏(左)とリストランテ アクアパッツァの日髙良実シェフ(右)
主催: Az. Agr. Francesco Tornatore / EUROCONSULT s.r.l.
運営: SOLOITALIA
協力: 大榮産業(株)