ホテル運営の仕組みを再定義、PMS からの脱却
■システムの機能開発も随時されているとのことですが、どのような将来像を目指していますか。
PMS のように個社ごとにカスタマイズされた既存の運営システムが抱える、高い導入コストや外部連携における非柔軟性などの課題を解決したいと考えて、基幹となる運営システム「suitebook」を自社で開発しました。オープンAPI 方式で外部システムや最先端のIoT 等とシンプルに接続できる仕様を構築し、急速に発展するIT の変化にも柔軟に対応でき、定期的にオペレーションをアップデートできるようにしております。
現在は、基盤となる予約管理、問合せ対応、チェックイン・アウト、清掃管理、会計管理が主ですが、将来的にはゲストマーケティングやレポーティング機能、収支管理機能なども搭載したいと考えています。また、清掃スタッフもクラウド型にすると、朝6時にチェックアウトした部屋を空いているスタッフに即時で清掃依頼し10時には完了、ゲストにアーリーチェックインを促す、などの仕組みも作ることができます。SQUEEZE は、システムのみならずこれまでのホテル経営と施設オペレーションの構造を抜本的に見直し、ホテル業界のデジタル・トランスフォーメーション、つまり業態改革に挑戦しています。
■最近はどのような相談が御社に寄せられていますか。
「アフターコロナにおいてもコロナ禍(低稼働率時)同様の人員数で運営をできるようにしたい」という相談を受ける機会が多いです。観光市場はゆるやかに回復していくと予測されますが、回復したときにまた増員し以前のオペレーションに戻すのではなく、この機会に省力化を図りたいということです。そのためには現状のオペレーションを変えていかなければなりません。
例えばモバイルチェックインの導入です。チェックインのカウンターは、なぜピーク時に混雑し行列ができてしまうのか?これは、1 から10 のプロセスをカウンターに立つスタッフが一組ずつこなしている業務フローにあります。カウンターで行なわれるやり取りの9 割をお客さまにモバイルを使って事前に行なっていただければ、カウンターでは最後に鍵を渡すだけで済みます。病院の初診時の問診票のように「自身で項目をチェックして受付に渡す」という考えです。そうするとカウンターでスタッフとお客様が接する時間を最短にでき、これだけでスタッフ一人が一定時間で対応できるキャパシティ(チェックイン数)は大幅に向上します。追加投資してスマートロック(テンキー)などのIoT 機器を導入すれば、カウンターを介在せずに宿泊者が部屋に入ることも可能です。当社も自社開発したモバイルチェックイン機能「suitebookchecksmart」のニーズが高いと判断し外販を始めました。PoC としても多くの企業様にご利用いただいています。
■チェックインシステムや自動精算機は最近取り入れている施設も多いですね。他にどのような事例がありますか。
当社の施設ではお客様とのコミュニケーションはLINEを推奨していますが、部屋にQR コードを設置しておくとゲストの多くがLINE 友達になってくださり、後日メルマガやDM 送信も可能です。新プランなどができたらLINEで配信し、多くの直接予約も獲得できています。
当社ではこういったことも一種の業務改善、高付加価値化だと捉えています。
宿泊業界もDX の波が押し寄せていますが、DX ビジョンなりIT 構想などと大きく難しいことと考えがちです。自社ですべて開発したりスクラッチから創ろうとせずに既存のアプリやシステムも上手に活用することで、従来のオペレーションを変えていくことが十分可能なのです。LINE 活用を例にとると、初期投資はゼロでユーザーの体験価値が向上でき、マーケティングにおいてもダイレクトトゥーカスタマー(D2C)施策の一部も行なえます。しかし、こうしたノウハウも、社内メンバーだけではなかなか生まれにくいということもあります。