多様性のある人材を集めることで、独自の面白さを表現し始めている
---実際にMUNI KYOTOを開業されて、ポジティブな面とネガティブな面についてどのように見ていますか。
MUNI KYOTOには嵐山を臨む大自然のビューという強みがあることから、今のところハードウェアに関するお客さまからの評価はそこまで聞かれません。その一方でソフトウェア、ヒューマンウェアについてはあえて多様性のある人材を集め、独自の面白さを表現し始めています。スタッフは国籍や性別、さらに個々人のバックグラウンドも実に多彩です。本来はもともとホテリエだった人材で固めた方が現場づくりは楽なのですが、今回はホテル経験のない人材の力でMUNI KYOTOを創っていこうと考えました 。 彼らは 私 が「 右 向け 右」と言ったところで向いてくれませんから総支配人としてはなかなか大変ですが、だからこそ差別化された何かを提供できるのではないかと期待しています。
---京都というロケーションの特殊性は旅館や祇園、寺院の存在によって出てくるもので、ローカルの特性を痛いほど実感しながらマーケットを見ていく必要があります。いわんや今はコロナ禍でインバウンドの集客が望めない。オーセンティックな土地のローカルなマーケットでビジネスを展開するのは、何事とも比較できないほど大変なことだと京都のお客さまは知っているはずです。
「MUNI」というのは唯一無二から取られたネーミングであり、サービスについてもMUNI KYOTOにしかないものを追求する必要があります。「何が唯一無二なのか?」と尋ねられたとき、私たちはサービスのプラスアルファについて考え込んでしまいがちです。ただ外資系のラグジュアリーホテルを見渡したとき、それぞれ独自のこだわりはあっても、プラスアルファな要素はあまり感じられないというのが私の印象です。ラグジュアリーのサービスは、実はどこへ行ってもきっちりと固まっていると言えるのではないでしょうか。
MUNI KYOTOが提供するプラスアルファのサービスをどのように創っていこうかと考えてみてもすぐにできるわけではなく、ラグジュアリーホテルに求められる基本的なサービスを徹底することが今、取り組むべきテーマなのだと考えています。スタンダードなサービスというベースがなければ、たとえプラスアルファで差別化された価値を打ち出そうとしても結局は崩れてしまうでしょう。スタッフには「ラグジュアリーホテルならどこでもやっている当たり前のサービスをしてください」とお願いしています。
スタッフにはわざとらしくないサービスを、格好を付けずに自然な形で漂わせてほしい
---帝国ホテルで石川さんが学んできたものを、NUNI KYOTOでどう活かすことができるかという課題もありますか。
日本のホテリエにとって、帝国ホテルは学校のような存在です。その帝国ホテルで25年間勤めてきた経験から学んだことが、ホテリエとしての私のベースになっています。帝国ホテルの凄みは、「現場力」と「忠誠心」をすべてのスタッフが持っていることだと思います。その2つを誰に押し付けられるわけでもなく、1人1人が自然に身に纏うことができている。そんな環境の中で育った私にとって、こうした感覚は今でもホテリエとしてのスタンダードとなっています。
---帝国ホテルはゲストをとても歓迎しますよね。
外資系のラグジュアリーホテルのように、ロビーに緊張感を持たせるのも一つの方法論だとは思いますが、それとは違うやり方を私は帝国ホテルで培ってきました。ラグジュアリーホテルのホテリエとしての姿勢が帝国ホテルで形づくられた私としては、わざとらしくないサービスをスタッフに要求することになります。「洗練された心地よいサービス」をコンセプトに置きながら、「帝国ホテルに足を踏み入れるとなぜか安心できて、ほっとする」とずっとお客さまから言われてきた雰囲気を、MUNI KYOTOでも生み出していきたいという気持ちもあります。私にとってこの基本的な姿勢は、意識して作り上げるようなものではありません。格好を付けずに、自然な形で現場に漂わせることができたらと思っています。