島田 12 カ国に向けて日本酒を輸出sするに至った経緯を教えてください。
薄井 私たちは現在、北米、香港、台湾、シンガポール、イタリア、スペインなどに日本酒を輸出していますが、ありがたいことにすべてあちらの国から要望をいただいて取引が始まっています。ですので弊社としては海外市場の開拓をせずに、輸出することができるようになったということです。
「酒蔵から酒を出荷しました。はい終わり」では駄目で、相手の国によって異なる日本酒に対する考え方を理解していかなければなりません。実際に海外で日本酒を飲んで愕がくぜん然とすることがあります。国境を越えていくということは、その国の文化に入っていくことですから、難しさがあるのは当然のことです。
例えばヨーロッパはワインセラーの文化が根付いていて、日本酒の扱いがまったくでたらめなんですよ。日本酒を保存するのにワインセラーでは温度が高すぎる。赤ワインは15℃から20℃のセラーで管理されますが、日本酒の場合は理想は0℃、どんなに高くても3℃から5℃です。
私はイタリア人にこう言われました。「こんなに丁重にワインセラーで保管しているのに、どうして怒るのだ?」と。私たちからすれば「日本酒は生鮮食品と同じで、冷蔵庫に入れてください」とお願いしても、それが守られないのです。「冷蔵庫は空いているスペースがないから、日本酒は大事にワインセラーで保管している」となる。そこに文化の違いが出てしまって、何回説明しても理解してもらえない。たとえそのときに直してもらっても、次に行ったときにはワインセラーに入っているのです。
ですから大事なのは多くの国と取引を始めることではなく、現地の文化にどう入り込んでいくか、どのように飲まれているかを考えることです。
島田 日本酒に「アッサンブラージュ」の考え方を採り入れているのも、仙禽の特徴の一つだと思います。
薄井 アッサンブラージュは、単純に言ってしまうと「ブレンド」です。日本酒の世界ではお酒とお酒のブレンドはずっとタブーとされ、どちらかと言うと価格の安い酒の味を均一化するために使うイメージでした。大量に造るから、味がぶれないようにすべてのお酒をブレンドして均一化を図るという考え方だったわけです。
私たちが取り組んでいるアッサンブラージュはそうではなく、それぞれの米の品種が出来上がった酒の個性を引っ張り合い、うまく融合することを目指しています。男性的な酒米の「雄町」、女性的な「亀の尾」をアッサンブラージュして、中庸な「山田錦」でバランスを取るといった方法です。
日本には100 種類もの酒造好適米(酒米)の品種があって、いろいろな米を使い切っているようで使い切れていませんから、上手にアッサンブラージュすることによって日本酒の品質が向上することで、もっといい方向に進んでいけると思います。
2020年5月29日号 グローバルSAKE マーケットの創造者たち 連載第2幕 第10回
グローバルSAKE マーケットの創造者たち 連載第2幕 第10回
【月刊HOTERES 2020年05月号】
2020年05月28日(木)