言ってみれば、仕入れ部門をしっかり押さえることが経営安定化への第一歩と言える。そこで仕入れ部門で長く働いているプロ中のプロと言われている東京ステーションホテルの鶴英蔵氏に最近の仕入れ部門の現状を聞いてみた。
鶴氏は20 年以上、ホテルの仕入れ部門に身を置き現在も仕入れ責任者として活躍している。
略歴は当初外資系ホテルに入社。約1年スチュワードを経験した後、仕入れ部門に配属され、また、リゾート地の日系ホテルでも8 年間仕入れ部門で働く。現部門も含めてトータル20 年以上の仕入れベテラン社員である。
日本の企業と違い外資系ではコスト面重視の食材に対する姿勢を学んだ。日系ホテルでは収益を含めた結果を数字で出すことに対する責任がことのほか強かった。こうした経験を踏まえ7年前に東京ステーションホテルに入社した。
「もともと食べることが好きで、特に市場が大好きで、この仕事は自分に合っていると思っています。
外資系ホテルで最初に先輩に言われたのは『とにかく市場に行け』ということでした。市場には数多くの学びがあるからです。そのためには食材の勉強をして市場の方々から教えてもらえるよう下地を作ることが重要でした。食材の基本知識がなければ話になりませんから。その教えは今でも守っています。市場に行くことは本当に大事です」と鶴氏。
市場の人は人情味があり、親しくなってくるといろいろなことを教えてくれる。こうしたことが今では宝物になっているという。
ところが、近年の仕入れのやり方が大きく変化しているのを感じている。一言で言えば“ 売り手市場主導型” になっているという。分かりやすく言えば、取引先から提出される見積通りの仕入れになっているというのだ。これでは価格に見合う仕入ができない。もう少し勉強して商品知識を増やし、取引先や市場の方々と渡り合えるようになって欲しいというのが鶴氏の意向だ。仕入れ側の情報が少なければ取引先主導になってしまうのは当然であろう。そのままうのみにするのではなく、交渉でいい食材を適正な価格で仕入れてこそ「仕事」と言える。全体的に感じることは、仕事が事務的になっているのでは、と心配する。もう少し具体的なことを示せば、競合見積の価格比較のみで仕入れを決めている可能性だ。昔は競合見積を見ながらも、使用するクオリティーや使い勝手の指示を出し、納品時には実際現物を見て、触って、「このレベルではシェフに渡せない」と検品もしっかりと購買で行なっていた。あるいは「このくらいの値段までで見積が出せるか」などと交渉していた。それは商品も世間相場もよく研究していたからできていたことだ。インターネットの普及も少なからず影響しているようだ。このことは次号で。
本誌 松沢良治
ニュースな話&人物クローズアップ 食材仕入れの現場から ①
【月刊HOTERES 2019年07月号】
2019年07月26日(金)