福永 情報があふれ、スマートフォンで簡単に知りたい情報を得ることができるようになりました。それは生活や仕事においてとても便利なことですが、その一方で本来受け継がれていかなければならないことが生活から消えています。
それは今の世代は“興味のないことはやらない”という思考にあるからです。日本ならではの伝統や文化、仁義や礼儀はとてもたいせつなことですが、それが現代の生活に不必要なものであるととらえたり、そもそもそのことを知らずに生活したりしている若者が増えています。
加藤 生活の中でやってはいけないことにはすべて理由があります。例えばよく電車の中でメイクをしている女性がいますが、頭ごなしに“やめなさい”と言っても“別にメイクをしているからといっても回りに迷惑をかけていない”という反発心を抱かせるだけです。そうではなくやってはいけない理由をきちんと教えてあげることが大切です。“電車の中でメイクをしているということは、アメリカでは娼婦とまちがえられてしまい、電車を降りてから家の近くまで後をつけられるのよ。つまり、メイクをすることは男性を誘っていること”というように、やってはいけない理由を伝えることで納得します。歴史的にも大名行列のときに横切ったイギリス人がその場で切り捨てられたこともあります。身分の高いものに対しての礼儀に反していたからです。つまり礼儀や作法は自分を守るために必要なことであり、1 つ1 つに理由があるのです。
福永 共働きで親が働いている家庭で育っている人も多く、1 人で食事をしたり、ゆっくりと時間をかけて親と食事をすることができなかったりすることで、生活の中で必要なことを教えてもらえる環境では育っていない人も多くなっているのではないでしょうか。食事をしたら食器を洗って片づけたり、座っていた椅子も整えたりすることもできないことがあります。大学の教室でも授業が始まってから入ってきた学生が扉を閉めずに席に着くことが多々あります。その度に近くに座っている学生が戸を閉めています。迷惑をかけていることに気がつかないのでしょう。
加藤 高級レストランやホテル、料亭にブーツを履いてくる女性がいらっしゃいます。本来、ブーツは防寒用の安全くつです。お店に対して大変失礼な行為です。ヨーロッパではブーツは防寒くつとしてとらえていますので、雪が降ったときにはタクシーから降りてからわずか3 歩しかブーツは履きません。ホテルやレストランに入る前にくつを履き替えます。そのためにくつを持ち歩くためのバックもあります。またニューヨーカーはビジネスの場面でもスニーカーを履いていると思われがちですが、スニーカーは道を歩くためのものであり、じゅうたんの上を歩くために作られていないのです。このように世界からさまざまな情報が入るほどに異なる解釈をしてしまい、それが世界で通用すると勘違いされているケースが多々あるのです。パートナーが22カ国参画しているアジア建築協会会長を務めているため王族や王様とのパーティーの席にも招かれることがあるのですが、自分のためにも世界儀礼であるプロトコルは徹底的に学ばなければならないことをひしと感じました。また世界のさまざまな宗教のことを学ぶことも、これからの時代欠かせないことであることも実感した時代です。何も知らずに“自分が正しい”ということそのものが“まちがっている”ことであり、すべての原因は自分にあることを考えることも、ますます求められる世界に通用するコミュニケーション力を高めるためにも欠かせないことです。
福永 まずは相手が望んでいることを理解する気持ちで相手の話を聞くと言う姿勢になることであり、それがコミュニケーションの一歩だと思います。自分が思っていることを一方的に相手に伝えることだけでは人間関係がうまくいくわけはありません。自分自身の思いを一生懸命伝えたとして、それに対して反応がないことには何か理由があります。なぜ、相手は反応しないのか? を常に考えなければコミュニケーションを図ることができないのです。
今の世代はメールやラインで一方的に自分の意見や思いを伝えてしまいがちですが、まずは相手を理解すること、そのためには相手のことをよく知ること、知るために必要なことを学ぶことは欠かせないことですね。職場においてもコミュニケーションがうまくいっていないことから、職場を離れていってしまうケースが多々あります。
加藤 残念ながら部下との円滑なコミュニケーションに取り組んでいるモデルとなる上司が少ないことと、人材育成、教育にお金をかけていないところが多いようです。人材不足の中、今、頑張っている人材はとても貴重な存在でありながら、日常業務に追われているだけで次世代の成長に向けた投資をしていません。また逆に部下も教えてもらって当たり前という感覚であることも歪めません。成長のために投資をしても当たり前という感覚では成長はありません。手をかけていただいたことに感謝をすること、そして成長することが上司や会社への恩返しにつながることを理解しなければなりません。年上を尊敬する、敬うという精神は日本人ならではの精神であり、その精神に立ちお互いに尊重し合えばぎこちない人間関係が緩和されてくるのだと思います。神仏に手をあわせ日本人が持ちあらゆるものへの感謝の気持ちはとても大切なことであると思うのです。
福永 日常生活の中でついつい忘れてしまいがちな感謝の気持ちはとても大切なことです。その気持ちがあれば国境を越えても通用できるコミュニケーションの原点なのかもしれません。最後に今後の取り組みや思いなどをお聞かせください。
加藤 これからもさまざまなことを学び続け、学びを通して納得いただける教えの場を作り上げていきたいですね。仏教の教えで“無知は社会を壊す”と言われております。そうならないためにも、日本のレベルをグローバルな水準に引き上げていくためにも欠かせないプロトコールの大切さを伝えていきたいですね。最終的には義務教育の中で低学年から日本の礼儀作法やプロトコールを導入していくことが、私の夢であり目標です。そして常に感謝の気持ちを忘れずに自他共に敬う心を伝えていきたいと思います。
福永 さまざまなことを徹底的に学び、伝え続ける加藤社長の姿勢に感動するとともに、その姿勢と優しい心があるからこそ、学んだ人々の成長が実現できるのだと思います。小学校教育におけるプロトコルの導入実現にも期待しております。本日はありがとうございました。
㈱ティーライフ環境ラボ 代表取締役社長
加藤 淳子 氏
ティーライフアカデミー校長
元ANA クラウンプラザホテル京都
ブライダル担当顧問
トータルライフコンシェルジュ
㈱フェイス 代表取締役
福永 有利子 氏
レストラン・ゲストハウスのウエディングプランナーから各現場の管理職としてマネジメントを担い、確実に業績を伸ばしてきた。2003年にウエディングプランナー養成スクール講師を始め、2006年から2015年まで大学にて非常勤講師として教壇に立つ。2006年堂島ホテル婚礼部長、2008年同ホテル副総支配人。2009年に㈱フェイスを設立。代表取締役に就任し、現在に至る。
現在は、全国のホテルやゲストハウスにて成約率向上を目的としたトレーニングや、集客戦略立案・実践支援などのコンサルティングに加え、会場のビジュアル改善や各種販促ツールの制作など、ウエディング事業の収益改善に向けた業務支援を幅広く行なっている。また、現役ウエディングプランナーの人材育成や専門学校生やウエディング業界への転職希望者などを対象としたスクールも開講。今後は、ウエディング業界を超えて、ホテル・ホスピタリティ業界にて、人材育成マネジメントを広く担っていく。2018年4月から神戸国際大学客員教授。2019 年4 月から神戸女学院大学 非常勤講師。
著書:『ウエディングプランナーじゃない、アカンのは上司や! 悩める管理職のアメムチ19の育成術』