前回は供給過剰時代を生き抜くためのヒントとして低稼働、高単価実現のために有効な「稼働率の抑制」について説明しました。今回はこれについて、具体的な数値を当てはめながら詳しく解説していきます。そしてその先に見えてくるさまざまなメリットについても考えます。
小林 武嗣( こばやし・たけし)
C&RM ㈱ 代表取締役社長
1968 年生まれ。東海大学文学部日本史学科卒業後、NEC ソフトに入社。大型汎用機を主体としたシティホテル向けPMS に携わる。96 年、NEC ソフト退社。現株式会社サイグナスを起業し、代表取締役に就任。2 年ほど製造業を主体とした開発に従事するが、97 年NEC と共同でNEHOPS-EEの開発を請け負い、日本初のパソコンシステムによる大型シティホテルの成功事例を作る。その後、NEHOPS-EE の開発センターとして全国のシティホテルに導入。2002 年、マイクロス・フィデリオジャパンとの協業を開始し、日本初のCRM システムをリリース。04 年、NEC ソフト時代の元上司の丸山に代表取締役を譲り、副社長に就任。その後、一貫してホテル業に対するCRM の普及をめざし活動。12 年には、CRM とRM の融合の実現を念頭にC&RM 株式会社を設立。
http://c-and-rm.com/
満室にできない価格
競争は再考すべき
2014 年ごろから大都市圏のホテルは、空前の高稼働に沸きました。しかし、2018 年には一部の都市で異変が始まり、安値競争へと突き進んでいくことになりました。この要因の一つがRevPAR 至上主義と言えるでしょう。レベニューマネジメントにおいて、その成績はRevPARで測ることになるのですが、高需要時期にはホテルの客室数を上回る需要も珍しくなく、高値を探る展開が続きました。ところが、その後大阪、京都などの関西圏を中心に供給過剰へと市場が傾くにつれてブッキングカーブが満室に届かなくなったのです。
下図の例では、総客室数300 室のうち、20 日前の時点で予測した場合、250 室前後となり50 室ほど空室が出てしまいます。あと20 日で70 室前後しか売れないとの予測です。満室までは、120 室前後の販売が必要です。仮に普段1 室1 万円で販売していたとしたら、このままではプラス70 万円の販売となります。
ここで、RevPAR 至上主義で考えると、9000 円に値段を下げることで満室にはならないにしても100 室は売れるのではないか、と予測します。仮にもくろみ通り、100 室販売できれば、プラス90 万円となり、そのまま販売したよりも20 万円の増収です。ここでレベニューマネージャーは競合ホテルを見てみます。すると8000 円台のホテルもちらほら出ており、価格競争力で優位とは言えません。
では、価格優位性を強めるために8000 円で考えてみます。「価格優位性があるので満室にできるかもしれない」と仮定すると8000 円× 120 室ですから、96 万円となります。すると1 万円で販売するよりも26 万円、9000 円よりも6万円の増収になるわけです。
しかし、周囲の競合ホテルもそれを黙ってみているわけにはいきません。負けじと7000 円台を出してきます。これでは満室にはなりません。そこでレベニューマネージャーは7000 円を検討します。7000 円でも満室になれば、84 万円ですから1 万円で70 室しか売れないよりも14 万円もプラスです。“ イケル”と判断するのではないでしょうか。これを繰り返していくと、いつしか6000 円となります。なぜなら、6000 円でも満室ならば1 万円販売よりも2 万円増収だからです。ただ、これは「安くしたら満室になる」という前提があってこそ。実際の市場では、もくろみ通りに満室になることもあれば、結局は1 万円で販売したときと大差ない販売数で終わってしまうことも多いのです。供給過剰市場では、後者のケースが多い傾向にあります。
結果としては、6000 円× 80 室( 価格低下で+ 10 室) ぐらいで48 万円前後に収まってしまい、1 万円で販売した場合に比べ20 万円以上の減収となるわけです。