全般的に実践することで
深く理解できる
❒ 文化の違い、世代間のギャップがある中、ご自身のお考えをどのように広めていきたいとお考えですか。
人々がクオリティーライフについて議論するなら、母親や祖母の言うことにもっと耳を傾ける必要があるでしょう。そこにはたくさんの価値観、マナー、リスペクトを統合したようなものが存在します。特に、料理においては際立っています。歴史とは非常に魅力的なもので、それこそ私が日本を訪れる理由にもなっています。
時には私もサポートし、進捗を伺っていますが、欧米諸国に進出した多くの日本企業がゴールに達していないようです。欧米で販売した、ショーをやった、プロジェクトをやった、それだけでとてもハッピーになってしまうのが理由です。本来ならば、地域社会に溶け込み、理解される必要があるわけです。ですから、私はいつも彼らがいるところへ行くと、「取り組みがまだまだ足りない」「何か大事なピースが欠けている」とよく言っています。おかげで、最近は日本人ビジネスパーソンが、少しずつこの重要性に気づき始めてくれたように感じています。
私は、初めて米国で働くという多くの日本人シェフと一緒に仕事をした経験もあります。「ブーレー」での日本人シェフにまつわるエピソードですが、「もし手一杯で仕事が捗らないようなら、別のスタッフに手伝わせましょう」となったのですが、彼は自己管理ができていないと言われているように感じてしまったようです。もちろん、仕事ができないと思って手伝わせたわけではありません。文化の違いです。別の世界なのですから。
今日、古い秩序が廃れて新しい秩序と入れ替わるサイクルが遅くなっているように感じます。また、若い世代の人たちがとても孤立しています。私たちの世代のシェフは、パン作りや肉のさばき方までを学ばなくてはなりませんでしたが、私と一緒に働いていた、もしくは働いている若い人の中にこういったトレーニングを受けている人はいません。若い人たちは経験が少ないのです。ジェネレーション・ギャップですね。
興味深い例をご紹介しましょう。私の知っているアウディのマネージャーは多くの若いエンジニアを抱えていますが、彼の若い部下が試行錯誤していたのを見て指導したとき、部下は反抗的な態度を示しました。ところがその3 日後、「どうやって解決法が分かったのかを知りたい」と話しかけてきたので、「私たちの時代は車作り全体を担当したものだ、君たちが知っているのは一部だけなのだ」と答えたそうです。
また、食とワインに興味があるという80歳くらいの弁護士の男性と話していたときのことです。「どんな分野を得意としますか」と聞くと、「全般的に実践すべきだ」と答えました。彼が言うには、若い弁護士が彼のオフィスを訪ねて来る際、全般的に実践することが何につながるのかを知りたがるのだそうです。私もかつては若者でしたが、今の若い世代は自分のころとは全く異なっているように見えます。
私はまだまだ学ぶつもりです。若い世代からすれば、グーグルで検索したら簡単に情報を得られるようですけれど、私はもっと実用的な知識を持つべきだと思います。
インタビュー デービッド ブーレイ
日本の伝統食材に出会い、新たな気付きを得る それらを活かし食と健康、食と科学の結びつきを啓蒙していきたい(前編)
【月刊HOTERES 2019年06月号】
2019年06月14日(金)