―それは素晴らしいことです。総料理長の強い意志がなければできることではありません。ほかにはどのようなことを着手されたのですか。
渡邉 若手スタッフに新たなチャンスを与える場面を作り上げました。ホテルメトロポリタン山形はレストラン専用の厨房を備えていないため、朝食、ランチ、バーフードともに宴会調理スタッフが料理を作っていました。ランチブッフェはとても人気があり、連日多くのお客さまにお越しいただいたのですが、長時間労働の見直しを図るために、いったん、ランチブッフェの提供をお休みしました。まずは働く側の体制をきちんと整えていくことが、厨房離れを防止するために欠かせないという考えからです。と同時に、環境改善により自分の将来のための時間を生み出すことができたのです。気になるお店へ行ってみたり、専門書を見たりなど、調理人として求められる技術や感性を自助努力で身に付けることができます。また将来的に管理職、経営者になるために、若手スタッフによるランチセッションを定期的に開催、社内スタッフを審査員として行なっています。投資できる原価は決められていますので、その中でいかに喜ばれる料理を考え、そしてプレゼンテーションできるかです。人前で話をすることが苦手な者も
多いのですが、皆、それぞれに和洋中スタッフいずれも挑戦しています。中には提案されたメニューが宴会メニューとして採用された者もいます。またランチセッション参加またはコンクール出場者のために厨房を使いたいものは事前に「自己研鑽承諾書」の申請を通して許可をしています。働き方改革による勤務制限の中、勤務外時間に電気、ガス、水道など自由に使うことができますので、納得いくまでプレゼンするための料理作りに取り組んでいる姿をよく見かけます。皆、とても意欲的で厨房が活気づき、生き生きとしてきましたね。
―自身が考えたメニューを作れることは、料理人の醍醐味です。特にホテルの場合、なかなかそこまで到達しないままあきらめてしまうケースが多いだけに、早い段階からそのようなチャンスを得られることでモチベーションが高まります。
渡邉 と同時に、一日の作業の見える化も実施しました。“ あとどのくらいで終わるんだ”と聞くと“ もう、そろそろ終わります”という返答はあるものの、結局、遅くまで働いている者がいます。だいたいとかそろそろではなく、今日一日、それぞれが何をどこまでやらなければならないのかを数値化したのです。明確にすることでやらなければならない仕事も明確になり、それに対してどのくらいの時間で終わらせなければならないのかも分かります。
必然的に技術力もアップしますし、調理人として大切な時間の概念も理解できるようになります。限られた時間で最大限のパフォーマンスを高めることができるか、これも上に立つほどに求められる要素なのです。このほか、新規の調理機器導入による調理作業の合理化や、OEM の導入など、業務の見直や働き方改革に取り組んでいます。
―山形に着任されて短期間で和洋中含めたマルチタスク化や若手育成のためのランチセッションに取り組まれ、同時に地元の生産者とのコミュニケーションも図られています。まさに食のリーディングホテルとして着実に基盤を築かれていらっしゃいます。最後にひと言お願いいたします。
渡邉 これから先、次世代を担う若者たちは“ 自分で考える力” を身に付けていかなければなりません。いつまでも指示を待つのではなく、自分で考え挑戦してみることです。また上に立つ者も、これまでの慣習を踏襲することなく、後輩たちに背中を見られているという意識に立ち、改革を恐れることなく料理人として求められることをさまざまな体験を通して学んでほしい。あんな先輩になりたい、あんな上司になりたい、あんな一流のシェフになりたいと思われる存在になることが、課題とされる若手スタッフの厨房離れを防ぐとともに、厨房にあこがれる新たな人材を得ることができるのだと思います。そのためにも、ほかのホテルにはない、オンリーワンになるとう意識を常に持っていることだと考えます。
真室川の鮎と勘次郎胡瓜