さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネジメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を月一連載(第4 週号掲載)でお届けする。
渡邉 隆(わたなべ・たかし)
高校卒業後、仙台市内の調理専門学校を経てフランス料理人の道を目指す。21 歳から4 年間トルコ共和国首都アンカラにおいて、在トルコ共和国大使館の公邸料理人を勤める。帰国後、ホテルメトロポリタン仙台に就職。以来、レストラン、宴会部門の各料理長を歴任。2017(平成29)年6 月 ホテルメトロポリタン山形 執行役員総料理長に就任。
―開業25 周年を迎えられ、山形県を代表するホテルとして、また“ 食のリーディングホテル”として実績を上げられていらっしゃいます。渡邉総料理長は「宮城の名工」として知事表彰されるほか、厚生労働大臣賞を受賞されるなど、まさに日本におけるフランス料理を代表する料理人として日々研鑽を重ねるとともに、厨房改革や次世代の育成に取り組まれていらっしゃいます。まず初めに渡邉総料理長の食のこだわりについてお聞かせください。
渡邉 食のこだわり、料理哲学として「ナチュラル」「ユニーク」「アルテザン」「エンターテインメント」「テロワール」の5項目をテーマに掲げています。「ナチュラル」は素材と向き合い素材を生かした季節感や作り手の顔が見える安心安全な食材を生かし、調理においても極力食品添加物を使わないよう努めることです。「ユニーク」は既成概念にとらわれない、ほかのホテルにはないオンリーワンの料理を作り出していくこと。「アルテザン」は伝統に基づいた料理技術の習得と継承。「エンターテインメント」はいかにお客さまに楽しんでいただくことができるか、お客さまから“ とても良い時間を過ごせました” のお声をいただける印象に残るもの。そして最後の「テロワール」は土地の魅力、地方の特性を生かした食材を活用した地産地消です。山形は寒暖差が大きいことから、ほかの土地や地域にはない生産物や中には100 年前から守り、受け継がれている伝承野菜も現存しています。この素晴らしい恵みを大切に、ほかのホテルにはないオンリーワンの料理を作り続けていくことが、食のリーディングホテルの使命でもあり、次世代をになう若者たちが料理人として成長していくために欠かせないことだと考えます。