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第三十二講 「料理人の教育論」第三十二講  ㈱ホテルオークラ札幌 総料理長 調理部 部長 中井 茂義 氏 

多様化する価値観、複雑なコミュニケーションの時代の中、変化を示すことで、職場環境の向上を図る

【月刊HOTERES 2018年11月号】
2018年11月23日(金)
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ホテルオークラ歴代のシェフに受け継がれる黄金のコンソメで仕上げた 北海道産牛テールのスープ パイ包み焼き

 
『Best A.C.S』の体現
追い求めるオークラらしさ
 
―育成における仕組みとしての取り組みはいかがでしょうか。
 
 ホテルオークラには、開業当時の社長である野田岩次郎が掲げた『Best A.C.S』という経営理念があり、それに基づき日々の運営、ひいては人材の育成が行なわれます。「A」 はアコモデーションで施設、「C」 はキュイジーヌで料理、「S」はサービスであり、ACS を三本柱として、それぞれを常にベストに持っていくことに努力するという考えです。そしてホテルオークラにとって料理は三本に含まれるほど重要であり、それを提供する調理部は、重責を担っていることが理解できます。
 
 私たちの目指すベストキュイジーヌは、安全・安心や美味しさだけを意味するのでなく、一皿一皿愛情を注ぎ、心のこもった料理を一番おいしい状態でお客さまに提供することを指します。至極当然のことかもしれませんが、理念の体現として教育の中に組み込むことで、個人の意識は飛躍的に変化します。

 
―働き方改革が叫ばれる中、現場環境向上に向けた取り組みはいかがでしょうか。
 
 労務管理、安全管理など、今まさに人事担当者と二人三脚で作り上げていっている段階です。先般、私自身が変わったことをお伝えしましたが、それでも以前の姿勢が抜けきらない部分もあり、人事担当者が適時しっかりと私に対して指摘することもあります。上の立場になると人から指摘を受ける機会がなくなるのが常ですが、適切でないと感じられる言動、行動についてはしっかりと指摘があり、お互いを尊重できる関係ですので、いずれ理想とする職場を実現できると強く感じています。
 
 ほかに人材確保につながる地域ぐるみの取り組みですが、市内のホテルで退職者が出そうな場合には、紹介し合うよう連携を図っています。何事にも相性があり、最初に入った職場がたまたま合わなかったというのはよくある話です。最終的には本人の意思を尊重しますが、業界の先輩として仕事のやりがいやよろこびを伝えることで、業界に残る若手もいます。近年、専門学校を含め、料理人を志す若者が減少している中、とでも貴重な人材です。
 
―今後の目標や取り組みについてお聞かせください。
 
 ホテルオークラ札幌は、東京のオークラに比べ歴史が浅い分、中途採用者の割合が比較的高くなっています。個々の経験は貴重な財産ですので、そこにどのようにオークラらしさを伝え、表現できるように指導していくか、それが時間をかけて解消していく課題の一つです。新卒に関しては、卒業後すぐに当ホテルでの勤務開始となり、外の世界を知る機会は少ないのが現状です。そこで折角のグループというメリットを活かし、東京での合同研修などを会社には交渉していきたいと考えています。実現できれば、「オークラらしさ」を肌で感じた若手が増えていくわけですから、課題解決への貢献が期待できます
 
 個人的には今の立場になってまだ半年も経過していませんが、調理場に立つ機会が大幅に減っています。そこで管理業務への慣れや、デスクワークのスキルアップによる自分自身の業務効率の改善を行ない、後世への指導の意味も含め、一分一秒でも長く料理人として厨房に立つ姿を周囲に示したいと思います。
 
 ―最後に、若手や業界へのメッセージをお願いいたします。
 
 私は「感謝」という言葉を大切にしています。食材の生産者さんに、お客さまに、そしてともに働くスタッフに、これまでたくさんの感謝の気持ちを持って接してきました。感謝の気持ちを持つことで、食材に対しては愛情を、お客さまに対しては敬意を、スタッフに対しては信頼をあらわすことができるようになります。自分一人では何もできません。人は常に周囲の存在によって生かされているのですから、困ったこと、悩んでいることがあれば周囲を頼ること。それによって料理人として、また一人の人間として成長していって欲しいと思います。


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