予算を立てる際に経営・マネジメントサイドが掲げる数値と現場サイドが想定する数値に乖離が生じてしまうことがある。目標達成のためにも双方が納得できる予算を設定することはホテル運営において必要不可欠なことである。今回はそのために有効な日別予算化について考える。
小林 武嗣(こばやし・たけし)
C&RM ㈱ 代表取締役社長
1968 年生まれ。東海大学文学部日本史学科卒業後、NEC ソフトに入社。大型汎用機を主体としたシティホテル向けPMS に携わる。96 年、NEC ソフト退社。現株式会社サイグナスを起業し、代表取締役に就任。2 年ほど製造業を主体とした開発に従事するが、97 年NEC と共同でNEHOPS-EEの開発を請け負い、日本初のパソコンシステムによる大型シティホテルの成功事例を作る。その後、NEHOPS-EE の開発センターとして全国のシティホテルに導入。2002 年、マイクロス・フィデリオジャパンとの協業を開始し、日本初のCRM システムをリリース。04 年、NEC ソフト時代の元上司の丸山に代表取締役を譲り、副社長に就任。その後、一貫してホテル業に対するCRM の普及をめざし活動。12 年には、CRM とRM の融合の実現を念頭にC&RM 株式会社を設立。
予算の攻防
過去の実績に基づき日別の目標値を算出する日別予算化をすることで、現場サイドでは具体的な予算達成イメージが生まれます。そうすると、その予算が本当に達成できるかどうか、つまり予算が現実感のあるものなのかどうかが分かるのです。
経営・マネジメントサイドは、俯瞰して予算を立てますが、現場サイドでは予約のオンハンドの入り方や市場環境、客層の変化などを直接見ていますから、経営・マネジメントサイドとは別の観点で予算を判断します。
例えば、通年での売り上げが前年を上回っていた場合、来年度を考えるとさらに売り上げは伸びるのではないかと考えるのが経営・マネジメントサイドの傾向ですが、予算を策定している段階で直近の売り上げが前年比に対して十分な伸びがなく、さらには3カ月先のフォーキャストも芳しくないという場合、現場サイドは弱気になっています。
また、経営・マネジメントサイドは、短期的な景気予測やインバウンドの来訪客数の増加見込み、あるいは周辺地域のホテル立地計画などの情報を持っていますが、現場サイドはあまりそうした情報を重視しない傾向もあります。
こうした意識の相違から現場サイドは日別に細かく見ていくことで「これは難しい」と判断することもあるでしょう。もちろん、現場サイドとしては予算は低い方が達成できますので、低くしたいという欲求も出てきます。ただ、予算が日別になっていることで経営側も細かく見ることができますから、そうした「前向き」ではない姿勢もすぐ分かるのです。しかし、前向きに考えつつもどうしても難しいと現場が判断した場合は、現場サイドが今度は経営・マネジメントサイドに対して「こういう理由で難しい」と具体的な数値を基に要求を出してくることになります。
ここから経営・マネジメントサイドと現場のサイドの交渉になりますが、これが日別予算ではない場合、現場サイドもあいまいな状態で要求しますし、経営・マネジメントサイドもあいまいな情報とあいまいな要求に終始する情報しか得られないため、検討することすらできない状況に陥ります。
結果的には「いいからこの予算で」と強く要請することで決着してしまいます。このような状況だと現場サイドは「押し付けられた」と感じてしまい、当初こそは予算を達成しようと頑張りますが、少しでも乖離していくと「押し付けられた予算だから」と無視するようになってしまうのです。
ところが、日別予算があれば現場サイドの説明も理にかなっており、それを聞く側の経営・マネジメントサイドも具体的な情報からさまざまな質問が出てきて、双方が来期予算についての共通の意識が生まれてきます。
そうした有意義な対話の中から経営・マネジメントサイドの持つ情報も現場サイドにフィードバックされていくこともあります。