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Close-up 木造建築が持つ可能性 Ⅰ

人が息づく空間をあたたかく、やすらぎをもたらす木造建築とホテルとの親和性 ㈱マウントフジアーキテクツスタジオ 一級建築士事務所 主宰 原田真宏 氏

【月刊HOTERES 2018年08月号】
2018年08月10日(金)
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㈱マウントフジアーキテクツスタジオ
一級建築士事務所
主宰 原田真宏 氏
㈱マウントフジアーキテクツスタジオ
一級建築士事務所 主宰建築家
芝浦工業大学 建築学部建築学科 教授
1973 年 静岡県生まれ。97 年 芝浦工業大学大学院建設工学専攻修了(三井所清典研究室)。同年 隈研吾建築都市設計事務所。2001年 文化庁芸術家海外派遣研修員制度を受け、Jose Antonio Martinez Lapena & Elias TorresArchitects(Barcelona)に所属。03 年 磯崎新アトリエ。04 年 原田麻魚 と 共 に「MOUNT FUJIARCHITECTS STUDIO」 設立。

 
-近年、木造建築の話題を耳にしますが素材として優れている面はどこにありますか?
 
 まず健全な素材だということです。木材は地球にやさしいエコフレンドリーな素材です。うっかり忘れられてしまっているかもしれませんが、人も木も生き物。木=植物という生き物由来の素材でヒトという生き物のための場所を造るのはとても自然なことです。何となくナチュラルな印象で好まれる素材でもありますが、科学的にも熱伝導率が低く、輻射熱が一定なのが大きな魅力だと思っています。冷えにくく、住環境として優れている。次に歩行感のよさです。コンクリートの床を歩いているとすごく疲れますが、木は適度なクッションがあって歩きやすい。さらに木という素材自体が調湿をしてくれるので一年を通して過ごしやすい。木で作ったオフィスで、インフルエンザの罹患率が減ったという事例も実際にあるようです。
 
 木の復権もあります。都市化の果てにコンクリートの建物ばかりの環境になった現在、都市生活者が木の空間に住みたくなるのは当然と言えるでしょう。木にまつわる世界的なカンファレンスも増えてきました。木の復権は当然ですし今後、一般的になっていくと思います。
 
-その「木材」をホテル建築に使用するメリットについて。
 
 ホテル建築におけるメリットは、自然のぬくもりを感じる人間にとって居心地のいい場所が作れることでしょう。私は当初から木材を使った建築を手掛けていますが、公共の木造建築が顕著になってきたのは法令の整備が進んだ2014、15 年頃からだと思います。以前のようにどこに行っても同じクオリティのサービスを受けられることがホテルのグレードを決めるのではなく、同じサービスでは不足と受け取られてしまいます。そこで、最近の事業主からの依頼で強く求められているのは、ローカルであること。その地域にしかない特長や、ほかには真似できない要素が欲しいという要望が増えています。
 
 日本には木の文化が昔からあり、木で作った宿泊施設でおもてなしをすることでグローバルな集客ができる時代になりました。銘木や匠の世界のような建築もありますが、日本は伝統的な表現と先進テクノロジーという二面性があり、木はそれを融合させられるとてもいい媒体だと思っています。
 
 最近は建築設計が平面だけでなくコンピューターで3D(立体)で行なえるようになり、木材の加工機も進化しています。そのため、日本的な伝統の表現と先進テクノロジーを融合させることが容易にできるようになりました。先進的なデザインが木という伝統的な素材で表現でき、バーチャルな設計の世界とリアルな建築の世界をシームレスに建築現場で接続できるため、工期が短縮できる可能性も高まっています。
 
 木材の" エコロジーかつエコノミカルな素材″であることが魅力ですし、現代の消費者の価値観ともマッチしています。地球にストレスのない建築であるということをユーザーにPRでき、ほかとの差別化にもなります。ユーザーは多少、値が張ったとしても自分たちにも地球にも優しく心地よいならば、未来への投資として考え、応援しようという目的で購入(宿泊)するのです。
 
ナチュラルで自然に優しい
クールジャパンを
打ち出せる
 
-豊かな自然の中に建つリゾートホテルなども周辺環境と違和感がなく、居心地のいい建物が好まれるようになりました。
 
 世界中のジオパークや国定公園の中にある宿泊施設で、周辺環境にマッチしていて環境にストレスが少ない建物はいくつもあります。T シャツにジーパンが一番リラックスできるように、自分らしくいられるようなホテルが求められているし、作るべきです。その時々のトレンドに合わせるために5年ごとにリノベーションを行う建物よりも、その土地に根付いた「今」だけでなく歳を経る程に美しさを増すという建物を目指しています。
 
 今では建築材料としての技術も進み、適切な強度の木材を選択することもできます。デザインや構造計算が進化し、法律も追いついてきた。木造による開放的な空間も可能になり、都市の戸建て、首都圏近郊でのリゾートハウスや週末別荘も実現してきました。島根県隠岐諸島ではハイエンドユーザーをターゲットとした木造のホテル計画も進んでいます。国内外で森林を守り共生して行くエコフレンドリーな文化が改めて定着しつつあると実感しています。
 
-建築における木材の可能性は?
 
 カナダやヨーロッパなど世界的には輻射熱や断熱性能の良さだけでなく、重量比強度の高さを生かして、構造躯体として多く使用されています。例えば、CLT(Cross Laminated Timber。大断面集成材)のような新しく生まれた素材で実際に中高層建築物を作っています。オフィスやホテルといった公共性の高い建築物で、外装や内装だけでなく、仕上げて中に隠れてしまう構造躯体に木材を使うことにもエコロジカルでエコノミカルな意味があるわけです。

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