東洋大学 国際観光学部 准教授 徳江 順一郎 氏
さぎの湯温泉 竹葉 女将 小幡 美香 氏
「どじょうすくい女将」というと、こっけいな姿ばかり想像してしまうだろう。しかし、小幡女将がそれを踊っているのは、必ずしも「ウケ」を狙ってだけではない。
出雲からもほど近い安来は、この周辺が神話にしばしば登場することからもうかがえるように、いにしえより発展していた地域であったと推察される。そして、この土地が力を持った源泉ともいわれるのが、古来の製鉄技術であり、それは現代にも引き継がれている。実はこの製鉄に欠かせない、ある「ふるまい」が「どじょうすくい」には隠されていたのである。
安来という地名自体も、スサノオノミコトがこの地に来て、「わが御心は安けくなりぬ」と述べたことによる、という説もあるくらい、歴史に満ちた地域である。このように、連綿と続くその土地の特性を伝えるために、女将という枠にとらわれない活動を続ける小幡女将に焦点を当ててみた。
※なお、文中では2 人称で「小幡女将」という表現が頻出する。彼女は、2018 年度観光庁「中核人材育成・強化事業」にて、東洋大学で学んでくれたが、その際に我々教員からそう呼ばれていたためである。ご容赦賜りたい。
どじょうすくい女将として
徳江 小幡女将はどうしても「どじょうすくい」で大変有名でいらっしゃるので、やはりまずはこの点についておうかがいさせてください。そもそも、どじょうすくい踊りというものは、いったいどのような背景を持っているのでしょうか。
小幡 はい、これは総合的な民俗芸能として、大正期を中心に全国的な人気を博した安来節の一節です。どじょうすくいのようなこっけいな踊りを含み、この土地のさまざまな要素を盛り込んだ芸能なんです。
徳江 土地の要素が盛り込まれているという点が興味深いですね。
小幡 この地で伝統的に行なわれてきた、たたら製鉄の際に必要な、砂鉄を取り分ける動き、なんていうのも含まれているんですよ。
徳江 それにしても、なかなか女性でやる方はいないのではないかと思います。どのようなきっかけで踊るようになったのでしょうか。
小幡 たまたま、お客様にどじょうすくい踊りの名人の方がいらっしゃって、その方に声をかけていただいたのがきっかけです。伝統を継承していくのもいいなと。でももちろん、最初は勇気が必要でしたよ。当時の市長さんを含め、周りの8 割くらいの人たちからは反対されましたし。でも、夫が背中を押してくれたので…(笑)