ログイン
検索
  • TOP  > 
  • 記事一覧  > 
  • 桐明幸弘 大山美和  「旅館の事業承継と地方創生について」 ~地域一体再生のご提案~ 連載2 旅館業を取り巻く外部経営環境、旅館内部の経営課題
連載2 桐明幸弘 大山美和  「旅館の事業承継と地方創生について」 ~地域一体再生のご提案~

連載2 旅館業を取り巻く外部経営環境、旅館内部の経営課題

【月刊HOTERES 2017年11月号】
2017年11月03日(金)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 
1. 旅館業を取り巻く外部経営環境
 
 旅館事業は、サービス業ではあるものの、施設が無ければ成立しない装置産業でもありますから、社会的な環境の影響を直接に受けることが多いと思います。そのなかでも旅館の経営に影響する、外部環境の変化を挙げています。
 
①消費者の嗜好の変化
 かつての団体旅行が影をひそめ、替わって個人旅行が主流になっていることはもうずいぶん前から言われていますが、それだけではなく、若い人たちが外出せずスマホゲームなどに消費の中心を移しているという大きな嗜好変化があります。
 
②国内宿泊旅行客の減少
 各種の統計などをみると、日本人の旅行回数や消費単価に大きな変化はないものの、海外旅行や日帰り旅行の増加が目立ち、国内の宿泊旅行回数などが減少していることが顕著です。箱根など有名温泉地においても、その傾向が強いと聞いています。
 
③ホテル、民泊など競合施設の増加
 かつて円高で海外旅行ブームが起こっており、そのときに海外のリゾートなどの素晴らしい施設を経験した旅行者は、最近では自宅よりもみすぼらしい施設となった旅館を敬遠し、ホテルを利用する機会が増えているようです。比較的安い宿泊費や泊食分離の自由を求めていると思われます。また、インバウンド客においては、最近急激に民泊への移行がみられ、大きな社会現象となっています。
 
④固定資産税、社会保険料などの負担増
 地方の旅館においては、売上がどんどん減少しているため、年々増加する社会保険料や東京基準で計算される実態を反映していない固定資産税の負担は非常に重たく経営を圧迫する要因となっています。
 
⑤インバウンド客の増加
 旅行客としてインバウンド客が増加しているのは良いことなのですが、中途半端に誘客して、日本人旅行客から敬遠されてしまった旅館の話があります。今後、益々増加することが予想されるインバウンド客に旅館業としてどう対応するのかは重要な課題となります。


2. 旅館内部の経営課題
 旅館業の多くは家族経営(ファミリービジネス)であり、中小企業という実態があまり認識されていません。しかし、企業としてしっかり経営をする必要があります。経営的な問題としては以下のものがあります。

①財務管理が杜撰なケースが多い(どんぶり勘定の経営)

 旅館業は、所有・経営・運営という3 つの機能に分解することができます。このなかの経営が最も重要であり、投資の判断や財務管理を行う必要があるのですが、どうしても営業収益を上げることが中心となり、運営には力を入れるものの、経営が杜撰となっている例が多いと思います。

②旧態依然の経営を続けている(旅行代理店への過度の依存)

 その肝心の運営でさえ集客の努力をしているかといえば、旧態依然に旅行代理店に依存している旅館が多いと思います。消費者がどのように宿泊施設を選択しているのかをもっと研究すべきではないでしょうか。

③会社が債務超過になっている(過剰債務の問題)

 私どもが事業承継を支援してきた旅館は全て大幅な債務超過に陥っていました。多くの旅館は、バブル期に大きな設備投資を行っており、その資金をほとんど銀行融資で調達していたため、現在でも過剰な債務に苦しんでいる旅館が多いと思われます。

④人材が不足している(後継者、幹部人材の不足)

 事業は順調であり、なんとか債務弁済ができている旅館においてもその事業を引き継ぐ後継者が居ない例が多いようです。また、働き手となる従業員を募集してもスーパーなど他のサービス業に取られてなかなか就職してくれないという悩みがあります。

⑤設備投資の誤り(コンセプトの無いリノベーション)

 既に申し上げたように、旅館業は装置産業ですから不断の設備投資が必要なのですが、躯体部分のメンテナンスがしっかりできていないケースが多いのに加え、運営強化のために行う新規の設備投資においても将来の収支予想をしっかり立てないでコンセプトもなくリノベーションを行うケースが見受けられます。外部環境を踏まえて長期的な視野で投資を行うべきと思います。

3. 旅館の事業継続に不可欠な地域一体再生の考え方

 以上のように、地方の旅館業には共通する問題が多いのですが、これらの問題をほぼ一気に解決する方法として旅館業の地域一体再生を考案したのが2005年というわけです。詳しいスキームについては次号でご紹介しますが、旅館業を中心とした地域一体再生のイメージは下図の通りです。

 すなわち、地域の旅館業が所有・経営・運営のうちの経営部分を統合して、食材の共同購入や資金調達あるいは人材採用などを行い、各旅館の運営はそのままで全体として地域貢献を行うというスキームになります。これを実現するためには、地域の行政、金融機関そして周辺の観光施設等との協力が必要となります。

〈桐明幸弘プロフィール〉
福岡県出身、昭和55 年「東洋信託銀行」(現三菱UFJ信託銀行)入行、平成2 年に独立系のM&A 仲介専門会社「レコフ」に入社。外資系投資銀行を経て、平成13 年にトーマツグループのM&A アドバイザリー子会社入社。平成15 年より監査法人トーマツにて事業再生部門を立ち上げ、ホテル・旅館等を中心に事業再生支援サービスに従事。平成19 年に独立起業し「株式会社インテグリティサポート」代表取締役に就任。福岡市経営補佐顧問、神奈川県地方公社等専門部会委員、週刊ホテル・レストラン編集委員、太平洋クラブ株式会社社長など務める。

〈大山美和プロフィール〉
ネクストステージ・コンサルティング 代表
ファミリービジネス事業承継研究会 主宰
東京都出身、日本女子大学卒業、ボストン大学経営大学院MBA 修了。米国公認会計士。米系金融機関、大手会計事務所KPMGニューヨークにて勤務後、平成9年帰国して同社日本拠点の創設と主要大手金融機関の不良債権処理や事業再生アドバイザーのパイオニアとして活躍。平成15年デロイトトーマツに転籍し、企業再生に加えて国内外M&Aを含む総合的ファイナンシャルアドバイザリー業務を展開し、旅館・ホテルを含めたホスピタリティ業界の対応案件に多く関与した経験を持つ。現在は、独立して旅館に代表されるファミリービジネスの経営革新や事業承継案件に数多く携わり、また、宿屋大学をはじめとする講座やセミナーなどを通して、旅館・ホテルの経営者・後継者に向けた『ネクストステージ・コンサルティング』を展開している。

月刊HOTERES[ホテレス]最新号
2024年11月15日号
2024年11月15日号
本体6,600円(税込)
【特集】本誌独自調査 総売上高から見た日本のベスト100ホテル
【TOP RUNNER】
フォーシーズンズホテル大阪 総支配人 アレスター・マカルパイ…

■業界人必読ニュース

■アクセスランキング

  • 昨日
  • 1週間
  • 1ヶ月
CLOSE