公益社団法人国際観光施設協会 事業委員会委員 インテリア部会幹事 ホテル都市分科会委員、㈱ワイス・ワイス 代表取締役
佐藤岳利
クリーンウッド法
今年5 月20 日、注目すべき法律が施行されました。通称「クリーンウッド法」(写真1)、正式名称を「合法伐採木材等の流入及び利用の促進に関する法律」といいます。
木材の輸入消費大国である日本は、木材生産国での違法伐採を助長させないよう努める責任があります。一方、日本は、G7 の中で唯一違法伐採木材の輸入を禁止しておらず、一人当たりの違法伐採木材製品の消費量が主要先進国で最も多い国の一つと言われています。違法伐採は、大規模な森林破壊や二酸化炭素の放出を引き起こし、生物多様性・森林生態系を損なうだけでなく、木材の市場価格を引き下げるなど、持続可能な森林経営を妨げる世界的な問題となっています。違法伐採された安価な輸入材の国内への流入は、国産材流通の妨げにもなっているため、違法伐採された木材の流通規制は、国内の林業の持続可能性に良い影響をもたらすと期待されています。クリーンウッド法では、輸入業者や、木材を多く利用する建築、家具製造、製紙などの業者は合法伐採された木材を扱うことを努力義務としており、合法伐採木材の利用に取り組む企業は、国の認定機関に登録され「登録木材関連事業者」という名称を用いることができます。クリーンウッド法では合法性を検証するデューデリジェンスは義務付けられていませんが、この法律の施行を契機に今後は日本企業にも木材の責任ある調達に向けた厳格なトレーサビリティの管理やサプライチェーンマネジメントの実施が求められます。
2015 年9 月に国連で採択された持続可能な開発目標「SDG’s」をはじめとする国際社会の動き、また、木をはじめとする自然環境資源を資本として計測し、企業会計や投資基準に取り入れる動きが世界規模で急速に加速する中、自然資本を経営の大切な資産と考え、地球環境と共生していくことが、これからの企業の存続に大きくかかわっていくことと思います。
写真1 クリーンウッド法 頭紙
環境先進国をけん引する日本
このような背景の中、弊社ワイス・ワイスでは、フェアウッド100%、さらには国産材・地域産材を積極的に使った家具づくり・空間づくりを通じて、お客さまのみならず、自然環境や地域社会に貢献する仕事に取り組んでいます。
例えば、東日本大震災に際し、宮城県栗駒山の被災した製材所と共に始めた復興家具づくり事業があります。地元のスギを使って、かつて製材所で働いていた人、近所の大工さんや福祉作業所の皆さんなど合計13名の方々が家具づくりに従事しています(写真2)。
宮崎県諸塚村では、大きくなりすぎて無用の長物になってしまったしいたけの原木栽培用のクヌギを使って地元での家具づくりが始まりました(写真3)。
岩手県では、直径50㎝以上に育ったにもかかわらず、細かく粉砕され高級トイレットペーパーになっているクリなど広葉樹を救い出し、長期に使用できる無垢材の家具をつくっています。
このような私たちの取り組みに共感するさまざまな企業や自治体が現れてきています。広島に本社を構えるIT 企業オフィスは、広島県のサクラやクリをふんだんに使ったデスク・イスをはじめ、地元事業者との協創で内装をつくり上げました。一歩オフィスに入れば、木の香りでリラックス、天然素材に包まれ、優しい肌触りで温かいなど、従業員の働く環境に、高い生産性と健康、モチベーションを与えています(写真4)。滋賀県のびわ湖に面するリゾートホテルでは、建設予定地の近くの山から出てきた木々を有効活用しようと、何十年もの間保管してきた木工所の経営者から木々を譲っていただき、家具、インテリアをつくりました(写真5)。汐留のロイヤルパークホテル26 階には、コンセプトルーム・名付けて里山をつくり、内装材・家具・調度品・アメニティのすべてが国産で人気を博しています(写真6)。
このように、クリーンウッド(合法木材)/国産材・地域産材を積極的に使えば、地域の環境と社会に貢献し、『企業価値を高める』ことができるのです。地域の自然資本を利用し、地域の産業と連携した空間づくりは、この多様な森を有する「木の国日本」だからこそ可能です。今こそ、日本の企業が、環境先進国日本をつくりあげるリーダーになる時が到来したのだと思います。