さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネージメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を隔週連載でお届けする。
ロイヤルパークホテル 総料理長 飯村 功 氏
料理人を含めて技術系の若者は
大変な時代を迎えている
——料理人の世界で人材教育の方法が変わりつつあると思いますが、後進育成のポイントはどこに置いていますか。
私が個人的に理想としているのは「自分を超える人間を育てる」ということです。どんな立場の人間にも世代交代の時期は必ずやってくるという現実を頭に入れながら、常日ごろから私を超えていく人間を育てていきたい。そして最終的にバトンを渡したい、と思っています。
ロイヤルパークホテルの総料理長は私で3代目です。初代の嶋村光夫ムッシュ、2代目の森道雄ムッシュから渡されたバトンを、今度は将来に向けて私がつないでいかなければなりません。その意識はとても強く持っています。ロイヤルパークホテルが28 年の歴史の中で築いてきたものを私がさらに育てて、それから次世代に託していくことになるでしょう。料理人を含めて技術系の若者たちにとっては、とても大変な時代を迎えていると思います。働き方改革やコンプライアンスの順守といった世の中の大きな流れの中で、技術系の若者が先輩から学び取る機会が減ってきてしまっているという面があるように感じるからです。
私が働き始めた20 年以上前の料理人の世界では、レストランの営業時間が終わるとようやく先輩から経験や知識を聞かせてもらえ、そこから自らのスキルアップにつなげていったものです。しかし、今の時代はそんなコミュニケーションを取ることすら難しくなってきました。勤怠管理にもしっかり取り組まなければなりませんし、有給休暇も消化してもらわなければなりません。営業時間外に先輩の教えを請う時間など、持ちたくても持てない環境になってしまいました。若手の料理人たちは、本当に大変な時代に生きているという気がします。