「彼を知り己を知れば百戦殆あやうからず」、有名な孫子の兵法の一つである。現代において経営者はコンペティターの動向を把握し、営業マンは営業先の現状把握が必須。時代は変われど、「相手を知る」という本質は変わらない。一昨年から引き続き『週刊HOTERES』は、人脈マッチングスペシャリスト、TOP CONNECT ㈱代表取締役 内田雅章氏をファシリテーターに、強い組織や成長著しい地域や企業の秘訣を探るべく、魅力あふれるリーダーとの対談を実現。第27 回は、日本の美意識や日本の技を世界に広げることを投資でサポートする、クールジャパン機構のリーダーである太田伸之代表取締役社長に登場いただいた。
クールジャパンビジネスを
中長期的に支えることが役目
内田 まず、クールジャパン機構とその活動内容について教えてください。
太田 日本政府のクールジャパン(日本の魅力)施策は小泉政権時代にコンテンツ戦略会議が発足したことに始まります。日本の産業構造がそれまでの工業中心から転換期を迎えているという認識に立ち、外貨を稼げる新たな産業を早急に創りだす必要性があるとの見地からテレビゲーム、漫画・アニメ、シェフ、テレビ局関係者などが集められてさまざまな議論が始まりました。その後、民主党政権時代になるとクールジャパン室が設立され、本格的な展開が望まれるようになりました。
しかし、クールジャパンのコンテンツを扱う企業の多くは、海外拠点や連携先がなく、金融機関からの資金調達の難しさなどから継続的なビジネス展開が少ないのが現状でした。そこで民間投資の「呼び水」として、リスクマネーを供給する官民ファンド、クールジャパン機構が2013年11 月に設立されたのです。
内田 海外進出を考えている企業につなぎ資金を提供するということですか。
太田 当社は経済産業省が推進するクールジャパンの活動を投資でお手伝いするためにつくられた会社です。融資でなく投資なのです。ファンドですから投資した資金はしっかり返してもらいます。ただし民間のファンドのようにハイリターンを求めているわけではありません。短期間ではなく中長期的に支えることが役目であり、じっくり事業を支えていくという考えを持っています。
内田 具体的にどのようなものが投資対象となるのでしょうか。
太田 どこまでがクールジャパンなのかは誰も決められないと思います。とても難しい領域です。一例を挙げると、飲食企業では力の源ホールディングスが「一風堂」をフランス・パリに出店する際に投資を検討しました。「一風堂」はラーメンダイニングを世界に広めようとしているので、これをクールジャパンと捉えて応援しようということになったわけです。パリへの出店は億円単位の営業権を取得しなければなりません。そこで当社は、英・豪などへの展開も含め、7 億円の投資と最大13 億円の融資枠を設定したのです。
内田 ラーメン業界にはほかにもたくさんの企業がありますが、なぜ力の源ホールディングスだったのですか。
太田 それは、ビジネスモデルを携えて来社されたからです。当社が営業に行って獲得したわけではありません。当社は設立から約3 年半経ちますが、これまで二千数百件の問い合わせがあり、そのうち承認されたのは二十数件です。比率はとても低いように見えますが、それには理由があります。補助金だと思って相談に来る方も多く、また、そのビジネスモデルでどのように儲けるのですか?というケースも少なくありません。単に海外出店したいから投資をしてほしいだけでは承認は難しいと言えるでしょう。
内田 単に和食、着物、和紙などの素材を持ち込むのではなく、売り方まで提示したビジネスアイデアを構築することが不可欠ということですね。サロン・デュ・サケがパリに進出しましたが、そうしたメンタリティーを持っている企業はまだ少ないのでしょうか。
太田 日本酒はキラーコンテンツだと思います。このまま日本だけをみていると市場規模は縮小していくので、各地の藏元さんにどんどん手を挙げてほしいと考えています。