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第一講

中村 勝宏  「料理人の教育論」 第一講

【月刊HOTERES 2017年04月号】
2017年04月14日(金)
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さまざまな料理人がいる中で、一人一人が持つ苦悩と挑戦の数々の物語がある。ホテル・レストランの総料理長が食の業界や若手の料理人に向けて伝えたいことは何か。これまでの長い経験の中で、どのようなことに悩み、どのようなことを考え、どのようにチームを創り上げてきたのか。インタビューを通じて後継者育成に向けた取り組み、マネージメント手法などを探るシリーズ「料理人の教育論」を隔週連載でお届けする。

中村 勝宏(なかむら・かつひろ)
1944 年鹿児島県生まれ。高校卒業後、料理界に入る。70 年渡欧。チューリッヒの「ホテルアスコット」を皮切りに、14 年間に渡りフランス各地の名だたるレストランでプロの料理人として活躍する。79 年にパリの無名レストラン「ル・ブールドネ」のグランシェフになるや評判店に押し上げ、日本人としてはじめてミシュランの一つ星を獲得。以降4年半に渡り、星を維持する。84 年に帰国、ホテルエドモント(現ホテルメトロポリタン エドモント)の開業とともにレストラン統括料理長となる。94 年同ホテル常務取締役総料理長に就任。2003 年フランス共和国より農事功労章シュヴァリエ叙勲。07 年ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパの総料理長に就任。08 年北海道洞爺湖サミットでは、総料理長として各国の要人はもちろん、随行員らも含むすべての料理を指揮統括する。10 年フランス共和国の農事功労章オフィシエ叙勲。13 年日本ホテル㈱取締役統括名誉総料理長に就任。15 年クルーズトレイン「TRAIN SUITE(トランスイート)四季島」の料理監修。16 年フランス共和国農事功労章の最高位「コマンドゥール」を受章。

 
日本では経済情勢の悪化によって
人材教育の流れが断絶してしまう
 
——新連載「料理人の教育論」の第一講は、中村勝宏料理長にご登場いただきます。
 
 なんだかすごいですね。「教育論」だなんて大げさすぎるのではないですか(笑)。むしろ私自身がまだまだ教育してもらいたいと思っているくらいで。とりあえず何でも答えますから、どうぞ質問してください。
 
——ホテル、レストランにとって、人材育成はとても大きな課題となってきていると思いますがいかがでしょうか。あらゆる業界と同様に、ホテル、レストランを含めて食の業界も人材育成に常に取り組んでいかなければならないのは言うまでもありません。ところが残念ながら、日本では折々の経済情勢に左右されて、人材育成がおろそかになってしまうケースが発生してしまいます
 
 例えば東日本大震災によって業績が落ちるに従い、それまでの人材育成のつながりが断絶されてしまうといったことが起こるわけです。本来であれば、どんなことが起きようとも人材教育は継続されるべきであり、会社の発展を考えれば後輩たちを育成することが不可欠であることは明らかですし、その継続があってこそ業界の地盤が固まっていくのだと思います。足元を固めながら、先々の発展を目指すためにも、人材育成は力を注ぐべき重要なものの一つだと基本的には考えています。
 
 しかし現実問題として、経済情勢などの外的要因によって、食の業界では人材教育が断絶してしまう傾向にあります。途中に谷間ができてしまったため、現在は特に中間層が育っていないというジレンマを抱えています。さらに新人の定着率が低いという問題もあります。
 
 昔はアルバイトというのは仮の仕事という意識が一般的でしたが、今ではアルバイトが一つの職業のようになっていて、安直に職を変えながら生きていくのが若い人たちの間で当たり前のようなスタイルとして定着してしまいました。現に転職のテレビコマーシャルが盛んに流されているわけです。そうした時代における人材育成について考えてみると、一つの職業に対する定着率を向上させるという意味では、若者にもう少し夢を持ってもらうことが求められのではないでしょうか。
 
 最初から面白おかしくできる仕事などあり得ません。職業に向き合うときの厳しさというものは、若い人たちにとっての登竜門として厳然と存在するのです。学校を卒業して社会人になって、自らの職業として選んだ道に入れば、そこには必ず大きな壁が立ちはだかります。それはある意味で社会人になれるかどうかの踏み絵のようなもので、その壁を乗り越えることが社会人としての最初の条件になるのです。ところが今の若い人たちは、自分の夢を簡単に変えることができるようです。悪く言えばすぐにあきらめてしまう。こうした傾向を背景に、一人前の料理人になるために我慢強く厳しさに耐えるということができなくなってきています。そのことが定着率の悪化にもつながっていますし、そこから人材育成の難しさが露呈しているのだと思います。
 

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