長きにわたって飲まれるカクテル
プロモーション活動も審査
スピリッツのグローバルブランド「バカルディ」が開催するバーテンダーとカクテルの世界大会「BACARDI LEGACY COCKTAIL COMPETITION 2017」(以下、BLCC)の日本大会ファイナルが2月23日、東京・芝公園のSTAR RISE TOWERで開催され、Bar Day Cocktail(横浜・館内)の佐藤健太郎氏が世界大会への切符をつかんだ。
BLCCは2008年に第一回大会が行なわれ、昨年からは日本でも予選が開催されている。12年大会では米国代表として出場した日本人バーテンダーの後閑信吾氏(現Speak Low Shanghai、Sober Company)が世界一の称号を得ている。今年の日本大会に向けた動きは昨年5月末の概要発表からスタートしており、7月11日~15日には東京、大阪、名古屋、福岡、札幌の5会場で12年BLCC英国大会優勝、元サヴォイホテル「The Beaufort Bar 」ヘッドバーテンダーのクリス・ムーア氏と昨年の日本大会優勝者である櫻井将人氏(現The Bar 草間GINZA)を講師にブランドセミナーが開催された。9月末の締め切りで作品を募集し、10月末には書類選考による第一審査通過者を選定。11月10日には20人によるセミファイナルによって、日本大会ファイナル進出者5人が選定されていた。
セミファイナル終了後からの約3カ月、ファイナリストには出品作品のプロモーション活動が課されるのがこの大会の特色だ。具体的にはFacebookに各自の作品ページが設置され、SNSでの情報発信や全国各地のバーでのゲストバーテンディングといったプロモーション活動、プロモーションツールの開発などによるカクテルの波及効果がファイナルの加点配分の四分の一を占める重要な審査対象となる。創作や調合技術だけでなく、商品企画やデザイン、コミュニケーションやプレゼンテーションという、現代のバーテンダーに求められる総合的なプロデュース能力を問う内容だ。実際、この大会で求められる作品は「世界中で長きにわたって飲まれるレガシーカクテルになる可能性」を審査されるもので、創造性はもちろんだが普及性が問われているのも特徴的である。
プロモーション期間を通して高まる
カクテルに対する強い思い
優勝した佐藤氏は、このファイナルでトップバッターを務めた。昨年ファイナルでは3人のバーテンダーすべてが英語によるプレゼンテーションだったが、今年はそれぞれに任意で言語を選択した。佐藤氏には明らかに緊張の色が見られたが、「ヨコハマカクテルコンペティション」グランプリなど数々の受賞歴を持つ技術がカバーした。カクテル「MARIEL」はキューバの港町の名で、佐藤氏の故郷の横浜の港町との類似点を見出し、新たなシティカクテルとして創作したもの。大会後、結果発表までの間に振る舞われたカクテルを飲んだ来場者の中でも好評だった。
続いて登場したのはパレスホテル東京の中村サビーヌさん。1961年に開業した同ホテルのロイヤルバーに立つ初めての女性バーテンダーだ。ヨーロッパではおなじみのビーツジュースを使った“魅惑的な女性”を意味するカクテル「TENTADORA」には、愛する母の姿を重ね合わせた。英語によるプレゼンテーションだったが登場から観衆を引き込み、情熱的で浸透力のあるスピーチには日本育ちのバーテンダーとは異なる魅力を発していた。
アンダーズ東京、ルーフトップバーの阿部央氏も情熱ほとばしるプレゼンテーション。時に会場は爆笑の渦となり、バカルディカクテルへの思いを熱く語る阿部氏に会場が一つとなった。コーヒー豆をひきバーナーであぶり、バカルディ8を通した“至福”を意味するカクテル「CLOUD8」に心をつかまれたファンの姿があった。
“バーテンダーに向けたカクテル”として国や文化を超えたつながりの素晴らしさを語ったのは、Bar au comptoir(東京・石神井)の高宮裕輔氏。グラスにオークの薫製チップを塗りつけ、バーナーであぶることでカクテルに香ばしい印象を与えたカクテル「B to B」はバルサミコビアンコのアクセントが特徴的だ。
ラストはBar 霞町 嵐(東京・西麻布)の竹田英和氏。NBA(日本バーテンダー協会)六本木支部の仲間の応援を背に入場時から会場が盛り上がる。バカルディラムの創始者、ドン・ファクンドが見た未来をイメージしたカクテル「Yeast Sunrise」はバカルディ8にヨーグルトリキュールやブルーチーズを使ったチャレンジが個性を発揮した。
この日、審査員として来日していたBLCC2014年世界大会優勝者のトム・ウォーカー氏(現米国・ブルックリン「Fresh Kills」)は日本大会のファイナリストを高く評価した。
「5人とも世界のステージでも活躍できる素晴らしい内容でした。日本のバーテンダーの伝統に裏打ちされたレベルは世界のトップクラスです。グローバルファイナルではすべてがうまくいかないと勝てません。なので、とにかく毎日練習してください」
また、後閑氏はプレゼンテーションに驚いた様子を見せた。
「とにかく熱量がすごかったです。プレゼンテーションが弱いと言われがちな日本が、まったく弱くなく、皆さんのプロモーション活動も時間をかけているだけあって、カクテルに対する強い思いを感じました」
見事に世界大会への進出を果たした佐藤氏は、この大会を通してかかわったすべてのひとへの感謝を壇上で語った。
「本日はお集まりいただきありがとうございました。この賞は私一人で勝ち取ったものではありません。ここにいるファイナリスト、またセミファイナリストの皆さま、ご協力いただいたバカルディ ジャパンの皆さま、そして今日ここにお集まりいただいた皆さま、何より今日、この会場に来ている父にこの感謝の気持ちを伝えたいです。僕はこのBLCCに出ること、勝つことがずっと夢でした。ベルリンで世界一を獲ってきます!」
世界大会は5月にドイツ・ベルリンで開催される。セミファイナルから今日までの3カ月の戦いを勝ち進んだ佐藤氏にとってのさらなる高みへの挑戦と、応援しがいのある世界大会までの3カ月がこの瞬間に始まった。
優勝作品「Mariel」(マリエル)
近年アメリカとの国交回復に向け期待を担う、キューバの港町マリエル。
佐藤氏の故郷の横浜の港町との類似点をいかし、新たなシティカクテルとして創作。
レシピ:
バカルディ8 40ml
ココナッツウォーター 15ml
フレッシュオレンジジュース 20ml
はちみつ 10ml
アブサン 2dashes
シェークしてカクテルグラスに注ぎ、シナモンパウダーを振りかける
トム・ウォーカー氏の総評
本日は私を招待していただいただけでなく、非の打ちどころのないコンペティションが開催されたことを大変うれしく思い、感謝しています。カクテル文化というものはこの40年、大きく成長してきました。ニューヨークやロンドンなどでは次世代のバーテンダーが台頭し、この間もBLCCといったコンペティションがバーテンダーの成長を後押ししてきました。やはり、カクテルの歴史や文化はアメリカやヨーロッパの国々で台頭していますが、忘れてはならないのはここ日本にも、カクテル文化がより長い年月をかけて育まれてきたということです。この大会に参加することは私の夢でした。世代を超えた素晴らしいジャッジの皆さんと今日ご一緒できたことで、バーテンダーとしての私の夢がかないました。
今日出場されたバーテンダーの皆さんは、今日の結果にかかわらず皆さんそれぞれのレガシーを作ってくれると思います。これからも、日本のバーテンダーがなぜすごいのかを、世界に発信してくれるでしょう。すべての選手が世界に行っても勝てるレベルです。
[ DATA ]
バカルディ レガシー カクテル コンペティション 2017 日本大会
開催日:2016年2月23日
ファイナル会場: STAR RISE TOWER
優勝:佐藤健太郎(Bar Day Cocktail= 横浜市中区常盤町4-52 文乃家ビル4F)
ファイナリスト:
中村サビーヌ(パレスホテル東京 = 東京都千代田区丸の内1-1-1)
阿部央(アンダーズ東京 = 東京都港区虎ノ門1-23-4 虎ノ門ヒルズ)
高宮裕輔(Bar au comptoir = 東京都練馬区石神井町7-1-1 コピーヌ石神井公園)
竹田英和(Bar 霞町 嵐 = 東京都港区西麻布3-23-14 内田邸B1F)
審査員:
岸久(日本バーテンダー協会会長)
小森谷弘(日本ホテルバーメンズ協会会長)
北村聡(プロフェッショナル・バーテンダーズ機構チェアマン)
後閑信吾(BLCC 2012年世界大会優勝者)
トム・ウォーカー(BLCC 2014年世界大会優勝者)
ゲストバーテンダー:
ラン・ヴァン・オンゲヴェレ(BLCC 2017年世界大会ベルギー代表)
主催:バカルディ ジャパン(株)
※敬称略
[ RULES ]
日本大会ファイナルでは「カクテルパフォーマンス」と「カクテルプロモーション」審査の創業評価により、世界大会に出場する日本代表1名を選出する。
カクテルパフォーマンス
・審査員および観客の前でバカルディを使ったオリジナルカクテルを作る
・創作にまつわるインスピレーションと、そのカクテルがバカルディに合うと考えた理由をプレゼンテーションする
・パフォーマンス時間は7分間以内とする
■配点(120点)
カクテル名 10点
プレゼンテーション=カクテルの見せ方 10点
パフォーマンス 30点
香りと味 30点
独創性 10点
レシピにまつわるインスピレーションと永続性 20点
再現性 10点
カクテルプロモーション
・セミファイナル終了後から3カ月間、自身のカクテルのプロモーションを実施する
・ファイナルにて審査員に対してプロモーション活動の結果を発表し、レガシーカクテルとしての可能性を実証する
■配点(40点)
カクテルの露出 10点
カクテルの認知 10点
カクテルのトライアル数 10点
プロモーションの創造性 10点