公益社団法人 国際観光施設協会 広報委員会委員
株式会社観光企画設計社 専務執行役員 建築設計部長
山田 誠夫
災害には、その立地により地震・噴火・台風・洪水・津波・地滑り・山崩れ・雪崩、液状化などの地盤崩壊・落雷・火災等、さまざまなものがあり、特に、地震と火災、地震と津波、地震と地滑り、地震と地盤崩壊などは、同時に発生することが少なくありません。災害対策には、災害予防対策と災害発生後対策の二つの側面があります。前者は、都市や建築といったハードな面での対策であり、後者は、避難・救出といった緊急対応から復興に至るまでのソフト面での対応に重点があります。災害対策としては、このどちらが欠けても、不十分です。
災害予防対策については、災害の発生に当たり、建築物そのものやその機能を破壊や倒壊からどこまで守るか、 あるいは維持するかということであり、このために建物の耐震性能をどのレベルまで用意するかということのハードな側面に重点があり、このシリーズでは、それぞれの分野の専門家が、その必要性を記事にされています。今回の稿では、ハードな部分の対応は、ほかの専門家の稿にお任せし、災害発生後対策としてのソフト面での対策について、阪神震災での実例をもとに考えてゆきたいと思います。
まずは以下の事例に目を通していただきたい。
◇事例:阪神震災でのホテルオークラ神戸
復旧までの歩み
1 月
17 日
◆地震発生
◦ ホテルオークラ東京内に災害対策本部設置
◦ 専用電話で現地状況、従業員等の災害状況確
認(宿泊客240 名全員無事)
◦ 支援資材の確認と調達手配
◦ 復旧支援チーム編成(建設時担当社員等4 名
+ 設計担当者1 名)
◦ 現地先乗りチーム(設計5 社)出発(伊丹経
由を予定したが、伊丹以降のルートが確保でき
ず、大阪泊)
◦ 現地派遣ルートの確認と手配
18 日
◦ 支援チーム出発(羽田→岡山→神戸)。岡山
にて、前日手配の支援物資(飲料水・食料・
コンロ等)をピックアップ。車中で、東京・神戸
と携帯電話で連絡、交通規制・渋滞状況を確
認し、これを避けて神戸へ向かう。(岡山→姫路
→三木→神戸)現地着16:30
◦ 先乗りチーム2 名(ほかの3 名帰京)西宮から
徒歩で現地到着16:00
◦ ホテルオークラ副社長ほか2 名岡山経由で現地
到着17:30
◦ ライフラインの状況確認(受水槽残量僅少、ガス停止、
電気保安灯臨時復旧、専用電話回線のみ、エレベー
ター全機停止、トイレ全館で1 カ所のみ使用可)
◦ 飲料水・生活水の支援体制確認(2t/ 日確保)
◦ 今後の行動予定打ち合わせ
19 日
◦ 副社長以下ホテルオークラ東京(HOT) 支援ス
タッフ・ホテルオークラ神戸(HOK) スタッフ・
設計者チーム・施工者グループ(鹿島、きんでん、
高砂、三機)が建築・設備に分かれて被害状
況確認と項目別復旧方針検討(補修か、撤去
再取り付けか、新規デザインか、継続調査か)
◦ タワーの一部を除き、電灯部分復旧
20 日
◦ 前日検討の項目と方針を関係各社に連絡。おの
おのの担当部位について、材料等の選定、詳
細の検討依頼
◦ 建設時担当の各施工者、メーカーに各部の詳
細な調査依頼
◦ 東京・神戸スタッフにて家具・什器・備品類の
被害状況継続調査
◦ 2 次災害防止のため、安全ルート、仮設養生等
の協議
◦ 仮設トイレ手配
◦ 生活用水4t/ 日確保
21 日
◦ ホテル従業員全員の無事確認(全半壊および
全半焼59 名)
◦ 仮設養生開始
◦ 外構試掘開始
◦ メーカー、下請業者調査開始
◦ 電気復旧予定工程の決定(幹線復旧1 月末
全館停電により本格受電2 月11 日、高層トラ
ンス再取り付けおよび全面復旧2 月19 日)
◦ 復旧工事及び再開業の目標を3 月1 日に設定
(ライフラインの復旧に依存するが、この目標に
向けて動く)
22 日
◦ 作業動線確保のため官庁への許可申請依頼
25 日
◦ 正面ファサード復旧案決定
◦ エレベーター5 台復旧
◦ JV 工事体制の方針および建設時担当者の選
定依頼
27 日
◦ 給水・生活排水の配管復旧工程決定(2 月
10 日完了予定、ただし、雨水は外構仕上工程
に合わせる)
◦ 設備機器点検、手配完了
◦ 大阪ガス来館調査(復旧予定不明)
◦ 生活用水10t/ 日確保
31 日
◦ 和食離れ棟復旧方針決定(渡り廊下撤去・修
復とする)
◦ 和食渡り廊下および屋外プール復旧工事は、3
月1 日までの再開業工程から外すことを確認
こうして、復旧までの足跡を振り返ってみると、災害初期の判断・行動がその後の復旧に大きくかかわっていることに気づかれることと思います。また、震災後、直後に行動するには、しっかりした事前の準備があったことも忘れてはなりません。
以下、時点ごとにまとめてみますと、
2 月
3 日
◦ 客室復旧レベルの方針提示。工程の調整依頼
6 日
◦ 高層棟汚水配管2 月10 日復旧完了。厨房系
統排水2 月15 日復旧完了予定
7 日
◦ 25 階までの客室給水・給湯水張点検完了
8 日
◦ 建物レベル等測定完了(構造的は使用に支障
なし。残留変形残る)
9 日
◦ 建物内電気絶縁改修ほぼ完了。防災設備総合
点検
◦ 空調設備破損個所交換補修完了。保温材取付。
◦ 給水・排水(雨水除く)建物外部接続部復旧
完了
◦ 3 月1 日再開業に向けて、受入側の復旧予定
の目途が立つ(インフラ側復旧予定は依然不明)
10 日
◦ 再開業に向けて、客室復旧工程の見直しと復
旧方針の再検討
11 日
◦ 全館停電にて(タワーの一部除き)電源復旧
◦ 上水本管復旧
14 日
◦ 中圧ガス復旧
◦ 再開業に向けて、低圧ガス復旧の希望工程提
出。(万一に備えて、低圧ガスが復旧できない場
合に備えて、代案検討→供給予定日回答得られず)
15 日
◦ 低層パッケージ立ち上げ完了
◦ 全冷蔵庫立ち上げ完了
◦ スプリンクラー揚水ポンプコイル復旧完了
◦ 客室復旧方針再検討案にて決定(3 月1 日
250 室確保を目標とする)
18 日
◦ 低層給湯開始
19 日
◦ 高層トランス復旧完了(電源復旧完了)
◦ 高層棟給湯開始
◦ 低圧ガス復旧予定2 月24 日に決定
◦ 3 月1 日再開業確定
22 日
◦ 客室棟4 面の窓に”ファイト”の光文字点灯(2
月28 日まで)開始
23 日
◦ トイレおよび空調完全復旧
24 日
◦ 低圧ガス復旧→厨房再稼働開始
◦ 3 月1 日時点での残工事エリアの確認と養生方
法の検討
26 日
◦ 館内足場撤去
◦ ロビー・ラウンジカーペット敷き込み
◦ 正面ファサード復旧完了
27 日
◦ 3 月1 日以降の残工事工程見直し指示
◦ 3 月1 日以降の客室クロス施工者応援HOT へ
依頼
3 月
1 日
◆ 午前7 時再開業
(客室256 室、テラスレストラン・和食堂離れ棟
を除くすべてのレストラン・宴会場の営業再開)
15 日
◦ テラスレストラン営業再開
4 月
8 日
◦ 客室改修完了
5 月
28 日
◦ 渡り廊下および和食堂離れ棟改修工事完了
6 月
1 日
◦ 和食堂離れ棟営業再開
20 日
◦ 外構仕上補修完了
22 日
◆全施設再開業
◇事前の準備
□災害対策マニュアルの整備と備蓄体制
■基準:どのような場合に行動を起こすの(各部門の行動と営業続行の可否判断)
■行動組織と行動規範(誰がどんな行動をするのか。何を優先させるのか)
・ 本部と補佐機関
・ 情報収集(被災状況の把握、外部情報の入手)
・ 現地での避難・誘導、保安・警備
・ 施設復旧
・ 補給(食料等)
■基本対応の設定(具体的行動シミュレーション)と自主的な判断
■備蓄
・ 備蓄品目と備蓄施設の確認
・ 在庫品チェック(飲料水・雑用水、食料・非常食、衣料・リネン類、燃料、防災用品・簡易トイレ、医薬品・雑品類等)
・ 備蓄期間・数量の設定
・ 備品使用の優先順位の設定
・ 補給体制の確立
・ 衛生管理体制
災害発生後では、
◇災害発生直後
・現地災害状況の把握 ・早急な支援体制の編成・派遣 ・緊急支援物資の調達・手配
◇現地到着後
・2 次災害発生防止 ・現場復旧工事体制の確立 ・被害状況の詳細調査 ・項目別復旧方針の検討と決定 ・インフラ被害状況情報の把握と復旧情報の把握 ・飲料水・生活用水の確保となります。