国際観光イノベーション特区」に指定されている沖縄県が具体的な「ウェルネスツーリズム」のビジョンと、その実現に向けた施策を3 月の国家戦略特区合同会議で開示し、政府もこれを支援する方針を示した。かねてより、医療ツーリズムの推進を積極的化していく方針を政府は示してきたが、いよいよ政策レベルでの具体的な動きが見えてきた。今回は沖縄県の「ウェルネスツーリズム」にスポットを当てる。
図表1 ※3月24日 国家戦略特区合同会議 沖縄県提出資料より
「国家戦略特別区域高度医療提供事業」の概要
沖縄県が、内閣府が3 月24 日に中央合同庁舎で開催した国家戦略特別区域合同会議(参加7 区域:東京圏、関西圏、新潟市、養父市、福岡市・北九州市、沖縄県、愛知県)において、高度先進医療の提供を核とした医療ツーリズム推進に係る具体的な施策や要求を盛り込んだ「特区区域計画案」と、沖縄県が目指すウェルネスツーリズム推進のために必要な海外スパセラピスト受入れのための規制緩和の提言を盛り込んだ資料を提出した。
沖縄は「国際観光イノベーション特区」に指定されており、医療や健康増進を活用した新たなツーリズム市場の開拓に力を入れてきた。
会議には安慶名 均 沖縄県企画調整統括監(県知事代理)とともに、豊見城中央病院の潮平芳樹院長が出席。「特区区域計画案」では、特定事業の名称(「国家戦略特別区域高度医療提供事業」)と概要が示された(図表1)。
同事業の概要は、豊見城中央病院(沖縄県豊見城市)による再生医療を含む先端医療を柱に、治療目的のツーリストを集めることで地域振興を図るというもの。
豊見城中央病院が提供する先端医療は、①早期食道がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後の細胞シートを活用した再生医療、②小児の軽度三角頭蓋に対する頭蓋形成術、③ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)の三つで、ターゲットにはアジアを中心とした海外の患者も含んでいる。同院は、この取り組みを推進するためには、現在の基準病床とは別に、新たに事業に充てるための18 病床の追加が必要であるとした。
なお、沖縄が提出した国家戦略特別区域高度医療提供事業は、4 月13 日に首相官邸で開催された国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)において正式認定され、医療法の特例により18 床の増床が承認された。
図表2 ※3月24日 国家戦略特区合同会議 沖縄県提出資料より
スパビジネス活性化のため
外国人セラピストの
受け入れ体制整備を要求
沖縄県が特区区域計画案と併せて提出した資料には、医療サービスの充実を通じた医療ツーリズムと、スパを柱とするヘルスツーリズムを既存の観光資源と連携させることにより新たな市場を獲得しようという「ウェルネススーリズム」の概要(図表2)に加え、その実現に必要なアジアからのスパセラピスト受け入れの仕組みづくりを求める規制緩和策の提案が盛り込まれた。
この提案は、インバウンドゲストの増加に伴い、スパに対するニーズが高まっているにもかかわらず、彼らに対応可能で高度な技術を有するセラピストが不足しているとの認識に基づくもので、現状では「出入国管理及び難民認定法」が定める就労可能な在留資格のうち、「技能」の項目についてスパセラピスト※がないために、国内受け入れができない状況になっている。
沖縄は、規制緩和が認められれば、スパ産業が高度化することで、沖縄観光のブランド力が向上し、新たな客層の開拓やリピーターの獲得や客単価の向上につながると見込んでいる。※スパセラピストの職業要件(国家資格など)は現時点ではない
沖縄県が目指すウェルネスツーリズム
沖縄県の提唱する「ウェルネススーリズム」で注目したい点は、医療ツーリズムとヘルスツーリズムの双方をフラットに位置付けている点だ。
医療ツーリズムと、スパやエステ、食事指導など健康改善に資するサービスを提供するヘルスツーリズムとは近接分野であるが、医療行為の有無との兼ね合いから包括的に取り組むことが難しく、特に日本においては相互のシナジー効果を得にくい状況にある。しかしながら沖縄は、特区の強みを生かした地域包括的な取り組みが可能なため、国内外の患者や健康志向の強い観光客など、これまで日本が未開拓であった市場に対して訴求力の高いコンテンツづくりがしやすい状況にある。
今後の日本の医療ツーリズム・メディカルツーリズムの行方を占う意味でも、沖縄県の取り組みの動向に注目したい。