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第199回 北村剛史の新しい視点 「ホテルの価値」向上理論 〜ホテルのシステム思考〜 

第199 回『ホテルの賃貸借契約条件(賃料改定)』

【月刊HOTERES 2015年12月号】
2015年12月11日(金)
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賃料増減額請求権それぞれの要件について、①の「不相当」の解釈について借地借家法第32 条1 項を再度確認しますと、ホテル自体を賃借する、つまり借家のケースでは、土地および建物に対する公租公課の増減があること、土地および建物価格の高低やその他の経済事情の変動があること、そして近傍同種の建物の家賃との比較を当該不相当性の判断要素として例示しています。ただしこれらはあくまで例示に過ぎませんので、そのことで直ちに増減額請求権が発生するというものでもありません。上記の通り、当事者を当初の契約条件に拘束することが信義則に沿わないと判断される場合に認められるものですので、当事者間の個別事情を総合的に鑑みて判断されることになります。
 
 これまでの判例を見ますと、賃料が決定された際の経緯や事情について、特に約定された賃料と近傍同種の賃料相場との関係や賃借人側が営むであろう事業収支に対する当事者双方の見込み認識、敷金の額や賃貸人側の銀行借入金の返済予定に係る事情等も考慮すべきとしています。ホテルの賃借の際に、借主側の意向が建物の意匠性等に影響している場合には、つまりオーダーメイド賃貸の場合には、当該事情も考慮されることになります。
 
 ②の相当の期間が経過していることに関しては、条文上はある程度の期間の経過が求められるとも読めるものの、前回改定時よりそれ程期間が経過していない場合であっても経済的環境の大幅な変化等事情変更を認めることが妥当であれば適用すべきとの解釈がなされています。そして③の不増額の特約が付されていないということで、逆に不減額特約は強行法規違反となり無効となります。
 
 結局は①と③が具備されていれば、賃料増減額請求権が契約条件にかかわらず生じることになりますので、内容証明郵便等により送付する等単独の行為で法律的効果が生じることになります。この相当額に関して契約当事者に争いがある場合にはまず調停に付されることになりますが、ここでいう改定時の相当額が、不動産の鑑定評価上の「継続賃料」と言われている概念に当たります。
 
実質賃料と支払賃料の違い
 
 まず、不動産の鑑定評価における実質賃料の定義を見てみます。実質賃料とは、賃貸借等の対象となった不動産の賃貸借等の契約に基づく経済価値(使用方法等が賃貸借等の契約によって制約されている場合には、その制約されている程度に応じた経済価値)に即応する適正な純賃料および必要諸経費等から構成されています。
 
 一方で支払賃料とは、契約に当たって一時金が授受される場合においては、上記実質賃料から、一時金について賃料の前払的性格を有する一時金の運用益および償却額並びに預り金的性格を有する一時金の運用益を控除して求められた賃料と定義しています。つまり実質賃料を決定すれば、そこからさまざまな一時金等の運用益や償却額を控除調整し、毎月支払われる支払賃料を算出します。
 
 ここでいう一時金の中で、先の賃料の前払的性格を有するものには、権利金や、礼金が挙げられます。これらはそれらを支払った借主に返済されることがないものです。したがって契約期間に渡って償却し、実質賃料から当該償却額等を控除して支払賃料を求めます。預り金的性格を有する一時金には、敷金や保証金、建設協力金等の名称が使用されているものが挙げられます。実際には、名称のいかんにかかわらず、どのような性格を有しているかを検討して判断されることになります(地域よって名称が同じでも性格が異なることがあるため)。つまり、賃料滞納等の損害賠償の担保としての性格を有するもの(通常敷金と言われます)、契約期間の完全履行を保証するもの(通常は保証金と言われます)、建物等の建設資金に充当する目的で供与されるもので金融的性格を有するもの(通常は建設協力金と言われます)、営業権の対価またはのれん代に相当するものに一時金の性格に応じて分類され運用益や償却額について検討することになります。担保的性格、保証的性格の一時金については、契約期間内は無利息で据え置かれ、契約期間終了後に返済されますので、運用益として支払賃料の額に影響を与えることになります(支払賃料= 実質賃料- 一時金の運用益および償却額)。保証金では契約期間の中途まで据え置かれその後均等償還される場合もあります。金融的性格を有するものであれば、長期金利の一般の融資条件と比較し賃貸人側にとって有利な場合には、その差額相当額が支払賃料に影響を与えることになります。したがってこの場合には、支払条件の詳細確認が必要となります。営業権の対価やのれん代に該当するような一時金については、不動産に帰属するものではないので支払賃料に影響を与えません。
 
 これら一時金についても適切に考慮した支払賃料について、契約の経緯をも考慮し上記のように事情に変更がある場合には賃料の改定が議論されることになり、当事者間の公平性に留意しつつ改定されるべき適切な継続賃料を模索することになります(なお、定期建物賃貸借契約では賃料減額について、信義則の範囲内において特約に従うことになります)。

北村剛史
Takeshi Kitamura
㈱ホテル格付研究所 代表取締役所長
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士、MAI( 米国不動産鑑定士 )
MRICS(英国王室認定チャータードサーベイヤーズ)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。ホテル・旅館の不動産鑑定評価会社である㈱日本ホテルアプレイザルの取締役。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科では「ホテル・旅館の人格性、パーソナリティー」をテーマに研究活動に従事

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