気づけないアレルギー対応
先日、全国でホテルを展開する企業から親子カフェil sole を観察したいという依頼があり、2 日間、朝から夜まで、いつもの親子カフェil soleの営業をひたすら観察してもらう機会を作りました。食物アレルギーのお客さんが来るかどうかは当日にならないと分からないため、それを前提に来ていただき、いつものオペレーションをひたすら見ていただきました。
満席の店内をホールと調理各二人で回していました。小さな子どもたちがはしゃぎまわる満席の店内では、次から次にオーダーが入り、次から次に料理が運ばれ、ホールも調理場も大忙しです。調理場の近くに席をとり様子を見ていた私たちは、アレルギー対応のオーダーが入ったら、気づくだろうと思っていたのですが、何事もなく過ぎていきます。少し落ち着いたタイミングで、来店者に食物アレルギーの方がいなかったのか確認したところ、すでに2 組対応していました。これには、観察に来られた方も、自社の状況との違いに驚いていました。アレルギー対応が始まる雰囲気やアレルギー対応のためだけの特別な動作もなく、いつものオペレーションの中でアレルギー対応が行なわれているのです。
アルバイトがなぜ対応できるのか?
本連載でアレルギー対応はチームワークが大切であることや、食物アレルギーに関する詳しい知識がなくても、食材の知識があれば対応できることをお伝えしてきました。il soleもその点ではチームワークは素晴らしく、使用している原材料に関して把握しています。しかし、今回の観察で特徴的なことが一つ見つかりました。それが、頭の中での原材料の把握の仕方です。調理のアルバイトの大学生との会話にヒントがありました。
彼は、初めてのアルバイトがil soleで、どこにでもいそうな大学生です。大学で食物アレルギーや料理の勉強をしていない彼が、どうしてアレルギー対応ができるのか、たくさんの質問を投げかけ、返ってきた答えから分かったことがありました。それが、「使っていない食材」を把握していることでした。逆に使っている食材の原材料(アレルゲン)に関しては、迷ったり、確認しないと分からないことがあったのです。把握の仕方は、特定原材料、特定原材料に準じる27 品目のすべてに関してではなく「卵・乳・小麦・大豆を使っていない料理」をしっかり把握していました。
これまで外食企業の方々から使用している原材料をどう把握し、どう共有していくかの相談をいただくケースが多かったのですが、今回分かった「使っていない原材料」を把握していることは目から鱗うろこでした。il soleの来店者属性やこれまでの経験から、「卵・乳・小麦・大豆を使っていない料理」を把握する習慣がついたと思われますが、すべての原材料の把握に力を注ぐ今の一般的な方法に対して、さらに一歩先の、使われていない原材料を把握していることは、大きな発見でした。全ての原材料は把握しきれないから、卵・乳・小麦・大豆を使っていない料理を把握しています、という彼の言葉には、妙に納得しました。
仕組みと意識の両輪
il sole の今の仕組みと、従業員の意識はこれまでのリアルな対応から学び、改良が加えられてたどり着いたものであることは言うまでもありません。仕組みに頼ればミスが起きる一方、アレルギー対応は意識や熱意だけでできるものでもありません。忙しい現場だからこそ手間が少なく、必要とする人に情報が確実に届き、ミスを事前に防ぐことができる仕組みと、仕組みを通して、対応する人の意識を維持し続ける、このバランスがいかに重要か、今回の観察を通して改めて感じます。百聞は一見に如かず。観察にこられた方にとっても、気づきが多かったようです。
Topics
親子カフェil sole の現場を
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アレルギー対応を1 万回以上行ない、予約なしの当日対応でもすべての品目に対応している親子カフェil sole を間近で見ることで、取り組みのヒントを見つけませんか? 無料で見学会を実施します。ご希望の方は、NPO 法人アレルギーっこパパの会宛てにメール「info@www.arepapa.jp」でご連絡ください。対象者はレストラン部門のマネジメント層の方に限らせていただきます。
NPO 法人アレルギーっこパパの会
理事長
今村慎太郎
Shintaro Imamura
〈Profile〉娘の食物アレルギーをきっかけに、アレルギー対応力が高い企業が食物アレルギーのない人たちから選ばれる社会を目指し、2013 年NPO 法人アレルギーっこパパの会を設立。研修・講演、メニュー開発やコンサルティング、アレルギー対応のためのコミュニケーションWEBサービス「アレコミュ」で、ホテルや飲食店など外食企業のアレルギー対応支援を行なっている。NPO 法人アレルギーっこパパの会 http://www.arepapa.jp/