ロドリゴ・デ・ラ・カジェ (Rodrigo de la Calle)氏
マドリードのミシュラン店「El Invernadero」に続き、バルセロナでも挑む“緑の革命”。グリーン料理の名手、ロドリゴ・デ・ラ・カジェ氏 (Rodrigo de la Calle)に「緑」への拘りと信念に迫る日本メディア初単独インタビュー!
美しい建築、豊かな歴史、活気あふれる文化で知られる都市、バルセロナ。
スペインで2番目に大きな都市であり、ヨーロッパで最高レベルの美食の街としても評価されている理由として、地中海の海の幸だけでなく、山の幸も豊富に取り揃えられており、地元カタルーニャ食文化、地中海料理、スペインの伝統料理などが絶妙に融合している場所でもあるからだ。
そんなバルセロナではスローフードムーブメント、今注目の「Km0 (キロメートルゼロ)」や"緑の革命"など、持続可能な食材の利用にも注力している。地元農家や漁師から直接仕入れた新鮮な食材を使用するレストランが増えており、食の品質や環境への配慮が高まっているそうだ。バルセロナは、食を通じて地元の文化や環境にも関心を持つ街として、ますます進化し続けているのだ。
TARO編集部は今回バルセロナを訪れ、今注目のレストランと5つ星ホテルを取材した。その中でもAlmanac Barcelona内のミシュラン一つ星レストラン「Virens」のシェフで、スペインでも「グリーン・シェフ/cocinero verde」という異名を持つ野菜をメインにした料理の名手、ロドリゴ・デ・ラ・カジェ (Rodrigo de la Calle)氏に日本メディア初単独インタビューをお届けする。
ロドリゴ・デ・ラ・カジェ氏
Nana: シェフのロドリゴ・デ・ラ・カジェさん、インタビューの機会をいただき有難うございます! シェフになるまでの経歴やインスピレーションについて教えていただけますか?
De la Calle: お招きいただきありがとうございます。私は1976年にマドリードで生まれました。グアダルキビール川の支流で、果樹園と自然の恵みに囲まれたのどかな環境でした。毎朝、自家製の牛から搾った新鮮な牛乳を楽しみ、父はカモミールを栽培していました。この小さな町では、オリーブ畑を耕し、自家製オイルを作ることが日常生活の一部でした。
「料理」は私の家族に深く根付いており、昔から参考にしていたのは、アランフェスにある曽祖父のレストランの料理でした。このレストランは、著名な美食レストランを備えたホテルの中にあり、マドリード南部からの旅行者が必ず立ち寄る場所でした。1929年のミシュランガイドで推薦を受けたこともある素晴らしいお店です。
伝統として美食が日常にありましたね。この環境の中で、私の料理芸術への情熱は育まれました。その重要な役割を果たしたのはまさに両親であり、彼らのおかげで美食を中心とした食卓に満たされた幸せな子供時代を過ごすことができたのです。家で一緒に料理をしたり、訪れた土地の様々な料理を探検したり、ハエンでのタパスツアーに出かけたりしました。
初等教育(EGB)を終えた後、私はホテル経営を学び、シェフになりたいという思いを強く抱くようになります。しかし、ホテル経営の厳しさを知っていた両親はこの道に進むことを思いとどまらせました。それでも諦めることができず、最高のホテル学校のあるアランフェスに引っ越し、両親には内緒でホテル学校に入学しました。
シェフとしての初めての経験は、父からもらった祖母のレシピが載った料理本を使ってチョコレート・フランを作った時でした。この経験は私に大きな影響を与え、優れた料理を作り、味わうことが私の人生の天職であると確信したのです。
アランフェスの小さなバーでコーヒーを出したり、冷たいタパスを作ったりすることから始め、長年にわたる献身的な努力の結果、私はシェフとしての今の地位を築くことができました。現在は、あまり知られていない野菜の世界を提唱し、その魅力を広めることに注力しています。
Nana: あなたの料理に対する革新的なアプローチの原動力やインスピレーションをお聞かせください。
De La Calle: 私の主なインスピレーションは、私の育った環境と特殊な自然環境に深く根ざしています。先ほども言いましたように、子供時代は家族と共に美食を楽しむという時間を大切にしてきた環境の中、家族と一緒に料理をしたり、訪れた場所の多様な料理を探求したりしました。ハエンでのタパスツアーなど、新しい味の発見と経験は、私という人間に深く刻まれたのは間違いありません。
長年、自然に囲まれ、本物の味に恵まれた環境で過ごしたことは、今でもインスピレーションの源です。私は、多くの人々が忘れてしまった本物の味を再び前面に押し出すことを常に目指しています。
この原動力は、幼少期に楽しんだ素晴らしいひとときを料理を通じてみんなと分かち合いたいという強い思いです。私はノスタルジーを呼び起こし、人々に新たな素晴らしい思い出を作り出す食の力というのを信じています。
地域の伝統的な美食を維持していくことは中々困難なことです。ですが、私は忍耐強く、敏感な人間でもあるので、これができるのだと思っています。コンセプトやアイデアが浮かんだら、それをひたすら追い求め、料理とそのコンセプトを最も重要視する。このこだわりは、食材の清潔さ、厨房の整理整頓、制服、時間厳守にまで及びます。
私は、美食の世界に革命を起こしたフェラン・アドリアやエルブリ現象のような料理のパイオニアからもインスピレーションを得ています。彼らの貢献は、私独自の道を切り開く動機にもなっています。彼らの料理は私の情熱を駆り立て、新たな地平を切り開く後押しをしてくれたことは、シェフでもある私にとっては大変幸運なことだと言っても良いと思います。グリーン・キュイジーヌの分野でさまざまな試みを行い、新しい道を切り開く私の"料理の旅"に大きく影響を受けたのは間違いありません。
Nana: あなたは「プラントフォワード」「ガストロボタニカ」「グリーンキッチン」といったコンセプトの先駆者として知られています。これらの革新的な料理へのアプローチと、それがあなたにとってどのような意味を持つのか、詳しく教えてください。
De la Calle: もちろんです。これらの料理コンセプトは私の心の中で特別な位置を占めています。
コシナ・ヴェルデ(緑のキッチン)
「コシナ・ヴェルデ (Cocina Verde)」という言葉は、私が2010年に始めた料理のアプローチそのものなのです。スペインには、ベジタリアンやヴィーガン、ロー・ヴィーガンに沿った野菜ベースの料理の基準がなかったため、私はアランフェスのレストランで、肉や魚を使わないメニューを導入しました。ただし、動物性タンパク質を完全に排除するのではなく、主に野菜料理の味を引き立てる調味料としてという目的で使用していました。野菜の種、根、茎、葉、花、果実、そしてキノコを活用し、伝統的な野菜レシピを改良していました。
ガストロボタニカ
ガストロボタニカ (Gastrobotánica)は、植物学者でもあるサンティアゴ・オルツ氏とのコラボレーションから生まれたコンセプトです。新種の植物を研究し、忘れ去られた植物を救い出すことを目指しています。私たちは植物のさまざまな成分を掘り下げて研究し、それらの料理への応用を探求しています。ガストロボタニカは、美食学と植物学の融合であり、地元の農家と協力して忘れ去られた逸品を復活させることで、絶滅危惧植物の保護を促進しています。
ロドリゴ・デ・ラ・カジェ氏とのインタビューの様子
プラントフォワード
プラントフォワード (Plant Forward)は、私のグリーン・キュイジーヌ哲学の礎です。野菜を料理構成の最前線に据えることを中心に展開しており、野菜を中心とした料理を作り上げています。動物性食品も使いますが、あくまで補完的な役割を果たします。野菜を主役に置き、動物性の要素がその味を引き立てるという伝統にシフトしています。
これらのコンセプトは、私の料理へのアプローチを定義し、野菜にふさわしい存在感を与えることで、伝統的な料理を再構築するという私のコミットメントを反映しています。
日本での体験
Nana: 2005年に来日された際、非常にインパクトを受けたと伺っています。その旅の印象と、それがあなたの料理にどう影響を与えたかを教えてください。
De la Calle: 日本への旅は私の料理観を今日に至るまで形成し続けていると言っても良いと思います。当時、私は有名なスペイン人シェフ、マルティン・ベラサテギ氏のアシスタントを務め、愛知万博と同時期に開催された美食会議のために東京の地に降り立ちました。
東京での1週間は信じられないほど刺激的でした。特に印象深かったのは、地元の市場で見た食材、特に魚の豊富さと新鮮さでした。市場の光景は私の心に深く刻まれ、その鮮やかな色彩と細心の注意を払った食材の扱いを今でも鮮明に覚えています。
滞在中、都内の有名なレストランで食事をし、その食文化に浸る機会がありました。日本人シェフの食材に対する敬意と尊敬の念は目を見張るもので、特に魚や野菜に対する扱い方に感銘を受けました。食材のあるべき姿を守る姿勢は、私の心に深く響きました。
特に印象に残っているのは、夜の市場で出会った腕のいい職人との出会いです。彼が特別に作ってくれた野菜用の包丁は、日本で好まれる伝統的な包丁とは異なり、野菜を切るためにデザインされたものなのです。この経験は、私の料理における野菜の重要性を再確認させるものでした。
シェフと道具の関係の重要性、そして私の料理哲学における野菜の役割を改めて再認識することができたのです。また、日本で学んだ野菜の調理技術とその風味を際立たせる方法は、私の料理に大きな影響を与えてくれたのは間違いありません。日本の正確さと食材への敬意を私の料理哲学にいかに導入することができるか、この旅はその探求するきっかけを作ってくれました。これは私のインスピレーションであり続けてるだけではなく、ガストロノミーにおける野菜の地位を高めようとする努力にも影響しています。
Nana: 日本での旅は、あなたの料理観に大きな影響を与えたようですね。野菜の可能性を追求し、非常に先見の明のある方だということは明らかです。ところで、あなたのレストランで、お客様が期待するべきことを教えてください。
De la Calle: 私が手掛けている各レストランの特色ある料理についてご説明します。
まず、マドリッドの「エル・インベルナデロ」では、植物性料理への私の情熱が込められた2つのメニューを提供しています。1つ目の "Vegetalia" は、肉や魚を一切使わず、純粋に野菜のみを楽しんでいただくメニューです。野菜本来の味と食感を最大限に引き出し、その多様性と美味しさを体験していただけます。
もう1つのメニュー「ガストロボタニカ」は、野菜とともに有機的に調達された肉や魚も使用します。ここでは、動物性タンパク質は脇役に徹し、全体の風味を引き立てます。お客様には、野菜と責任を持って調達された動物性食品の調和を楽しんでいただくことが目的です。
要するに、「エル・インベルナデロ」は野菜の魅力を最大限に引き出し、贅沢な食体験を提供することを信念としています。お客様には、健康的な食生活の原則を尊重しながら、楽しい食事を楽しんでいただきたいと考えています。
さらに、マドリッドの有名なサン・ミゲル市場にレストラン「ラ・アロセリア・デ・ロドリゴ・デ・ラ・カジェ」を構えています。ここでは、米料理を中心に、バレンシアの豊かな米料理の伝統を誇りを持って提供しています。メニューには、野菜をふんだんに使ったクリエイティブな米料理が並び、特に「パエリャ・バレンシアーナ」のような伝統的なパエリャには敬意を表し提供しています。これは、鶏肉や香り高いハーブ、地元産の食材を使った風味豊かな料理です。
私のレストランでは、食のジャーニーと伝統に敬意を払いながら、野菜の可能性を讃える、思い出に残る食体験を提供することに全力を注いでいます。自然の素晴らしい風味を独創的かつ伝統的な方法で楽しむための私から皆様へのインビテーション(ご招待)なのです。
Nana: あなたのレストランは、野菜が真に輝く美食の冒険の目的地のようですね。また、ユニークで持続可能な食体験を提供することへの献身的な姿勢にも感謝しています。どれも魅力的で革新的です!シェフデ・ラ・カジェさん、今夜Virensであなたの芸術的なお料理の数々を味わえることを楽しみにしています。シェフの料理の真髄を知るためには、どの料理を試すべきでしょうか?
De la Calle: 今夜、Virensにお越しいただけることを大変嬉しいです。私の料理の真髄に深く浸かっていただき、私が大切にしているコンセプトを理解していただくために、ぜひ「ガストロボタニカ」というテイスティングメニューをお試しください。このコースは9つの特徴的なステップで構成されるいわゆる”食の旅”のような体験が得られ、それぞれがグリーン・キュイジーヌの豊かさを表現するために一皿一皿慎重にキュレートされています。
このコースは、酸味のタッチで味覚を刺激するように設計された冷たい前菜のセレクションから始まります。続いて、大胆で魅惑的な風味で知られる温かい前菜の数々が登場します。その中でも注目すべきは、焦がした赤ピーマンにマスの卵と新鮮な葉を添えた「ピーマン」の一品です。食感と味のハーモニーが五感を心地よく魅了してくれます。
さらに、アブラナ科のニンニクを使ったクリーミーなソースとポーチドエッグのリゾットもご用意しています。この料理は、ニンジンの自然な甘みに敬意を表しながら、興味深い要素を取り入れた一品です。
最後に、伝統的なデザートを再解釈した「セロリ・オニオン」をお召し上がりください。ハイビスカスを効かせた冷たいフルーツサラダに、爽やかなセロリとオニオンのアイスクリームを添えた楽しい構成です。思いがけない味の組み合わせに、驚きと喜びを感じていただけるでしょう。
Virens (ヴィレンス)が真にユニークなのは、驚きと感動をお届けすることにこだわっているからなのです。当店のテイスティングメニューはシェフのおまかせスタイルになっています。その時々の最高の季節の地元食材を用いることで、同じものは再び出すことはしません。それぞれの野菜の旬の美しさを讃え、季節を反映した特別な味わいをお届けしているからです。
Virensでの夕べが、忘れられないひとときとなり、野菜の驚くべきガストロノミーの可能性をより深く理解いただけることを願っています。
Nana: ロドリゴさん、今夜のおすすめと魅力的なご説明をありがとうございます。ヴィレンスで待っている食の驚きを楽しみにしてます。そして、また近いうちに日本に来てくださいね!
Rodrigo de la Calle Interview
In the heart of Spain’s culinary excellence is Rodrigo de la Calle, an enigmatic chef whose culinary journey reads like a symphony of swaying grass. His story unfolds against the backdrop of Madrid's urban buzz but finds its roots in a serene sanctuary – Mogón, a quaint town in Jaén, where the Guadalquivir River's embrace and the whispering Aguascebas tributary converge, cradling nature's bounty.
Rodrigo descends from a lineage of culinary connoisseurs, but it was the Michelin-recommended restaurant of his great-grandfather, nestled in the historic Aranjuez, that would etch the earliest inspiration onto his culinary canvas. His formative years resonated with family feasts, gastronomic discoveries, and tapas adventures, expertly guided by his father through the charming lanes of Jaén.
A rebellious spirit within Rodrigo led him to covertly enroll in a hotel school, defying his parents' career expectations. His culinary awakening occurred while crafting a delectable chocolate flan recipe passed down from his grandmother – a part of cherished recipe collections gifted by his father. Rodrigo says that this moment confirmed that the path of gastronomy was his true calling.
From humble beginnings in a quaint Aranjuez bar, where he served coffee and crafted cold tapas, Rodrigo's ascent to the pinnacle of culinary excellence has been nothing short of remarkable. Today, he stands as a luminary chef, dedicated to elevating vegetables to an art form, a realm long overshadowed in Spain’s haute cuisine.
Enter "Cocina Verde," Rodrigo's avant-garde concept. This culinary alchemist celebrates every facet of the vegetable universe. From seeds to stems, leaves to flowers, fruits to fats, his compositions are a harmonious union of animal and plant elements that tantalize the palate.
The genesis of "Gastrobotánica" emerged from a collaboration with botanist Santiago Orts. This concept merges the worlds of gastronomy and botany, resurrecting forgotten plant species and harnessing the diverse components of plants for gastronomic artistry.
"Plantforward," his current culinary philosophy, takes center stage at his esteemed restaurant, "El Invernadero" in Madrid. Here, guests are presented with two exceptional menus: "Vegetalia," a tribute to vegetables with carefully chosen animal proteins, and "Gastrobotánica," allowing diners to select meat or fish to complement vegetable-centered creations. It's a culinary experience that embraces health, sustainability, and sheer indulgence.
And let's not forget "La Arroceria de Rodrigo de la Calle" at Madrid's Sant Miguel market, where Rodrigo weaves Valencian rice traditions into innovative vegetable compositions, redefining the essence of paella.
Rodrigo's recommendation for the discerning traveler and gourmet enthusiast (like us!) had been to embark on the tasting journey of "Gastrobotánica" at Virens, his restaurant here at Almanac Barcelona. Comprising nine delightful courses that capture the essence of green cuisine, each dish has a revelation, with surprise elements that was in accordance with the season's bounty. It's a gastronomic odyssey that unveiled the flavors of each vegetable species at its peak, and opened our eyes and palette of the green senses.
Full interview is available on YouTube, from below link: