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ブレンドの妙意とは:アイル・オブ・ラッセイ ブレンディングセッション

2024年03月04日(月)
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2024年2月22日(木) アイル・オブ・ラッセイ シングルモルトを構成する6つの原酒「NA SIA (ナ・シア)」のブレンディング体験を目的としたセミナーがBar LIBRE GINZAにて開催された。本記事は、そのレポートである。
 
 
【アイル・オブ・ラッセイ蒸溜所】
アイル・オブ・ラッセイ蒸溜所は以前記事でも紹介したことのある蒸溜所だ。デスティネーションとコミュニティ、そしてテリトーリオ資源としての可能性に満ちており、酒造産業と地域活性という視点でも学ぶべき点が多くある。
 
2017年 9月にウイスキー蒸溜を開始した若い蒸溜所であり、その特徴は島の資源を活用した点だけでなく、『ナ・シア』と呼ばれる6つの原酒を用いているところにもある。熟成に、Ex-ボルドー赤ワイン、Ex-ライ、そしてチンカピン・オークの3種類の樽を用い、それぞれにピートとノン・ピートのニューポッドを熟成させることで計6種類の原酒を生みだしている。
 

アラスデア・デイ氏
アラスデア・デイ氏

今回、共同創業者兼マスターディスティラーのアラスデア・デイ氏が再び来日し、その『ナ・シア』を用いたブレンディングセミナーを開催してくれた。以下、当日の様子を含め、レポートしたい。
 

【言うは易く、行うは難し】
ブレンドに際しデイ氏は「それぞれの樽ごとに熟成をさせブレンドを行っていくが、香りやフレーバーのバランスをどのようにとるのかということが難しい(challenging)」と語る。なぜなら「自分が出したいと思う香りを持つ原酒を多く入れた方が良いのではないかと思いがちだが、ベース、ミドル、トップと出てくる香りを見極めてブレンドをしないと、バランスが崩れてしまう」からだ。トップノートに出てくる香りは量が少なくとも印象的に香る。このバランス感覚がブレンドには求められるという。
 
蒸溜所のシングルモルトである『アイル・オブ・ラッセイ ヘブリディアン シングルモルト』は、ex-ライ64%(ピート32%, ノン・ピート32%)、チンカピン・オーク24%(ピート12%, ノン・ピート12%)、ex-ボルドー12%(ピート6%, ノン・ピート6%)の比率をベースに仕上げられている。島の雰囲気を感じさせてくれる程よいピート感に、チンカピン・オーク由来と思われるコクと奥深さ、ライ由来の甘い香りとスパイシーさが多層的に感じられる。
 

ブレンドのバランスの重要性も理解できるし、味わいも感じることができる。しかし、実際に自身でブレンドを行ってみると、これが中々に難しい。まず、何を基準に組みたてれば良いのかピンとこないのだ。
 

単純に入れる・入れないの組み合わせで言えば、6種類の原酒を使うので、63通りの組み合わせが可能になる。この組み合わせの内、どれから始めればよいのだろうか?デイ氏のおススメは、トップノートにダークフルーツの香りを出すようなブレンドのようだ。
 
筆者はまずノン・ピートの原酒3種類をそれぞれ1:1:1の割合でブレンドした。同様にピートの原酒3種類も同じようにブレンドし、それぞれ味を確認した後に、ピートのブレンドとノン・ピートのブレンドを同量混ぜてみた。すると驚くほど個性が感じ難くなり、味わいも想像していたものとかけ離れたものになった。
 
その一方で、味わいを調整できるというのは、販売のヒントになるようにも感じた。ベースとなるブレンドを販売しつつ、オプションでブレンドするための小容量原酒を別途販売するようなイメージだ。いわば、ウイスキーの味変に使う薬味的なポジションとしての原酒販売だ。
 
 
【学びをどのように実務に活かすのか】
セミナーに参加する意義としては、新しい情報やトレンドを知る、生産者により詳しい話を聞くなど様々なことが考えられるが、それをどのようにして実務に活かしていくかの視点も欠かせない。
 
会場には、ホテルグランバッハ東京銀座 ヘッドバーテンダー 高橋 司氏の姿もあった。ブレンディングをしてみて、どのような学びがあったのか、そして実務にどのように活かせそうかについてお話しを伺った。
 

高橋 司氏
高橋 司氏

ホテルグランバッハ東京銀座 ヘッドバーテンダー 高橋 司氏
 
2014年ニッカ・ウイスキー・フォーラム「カクテルコンペティション」において日本一に輝き、その後、 日本バーテンダー協会主催の大会において、数々の賞を受賞。また2018 年ヘネシー・カクテルコンペティション「ジャパンファイナリスト」並びに、2018年、ロンサカパラム・コンペティション「ジャパンファイナル」に選出。2021年よりホテルグランバッハ東京銀座のヘッドバーテンダーとして勤務。
 

▶ホテルグランバッハ東京銀座バー&ラウンジ「Magdalena / マグダレーナ」についてお伺いさせて下さい。
 
高橋:J.S. バッハの生涯で大きな存在であった妻マグダレーナのようなぬくもりと、ピアノの心地よい音楽が溶け合うバー&ラウンジ「Magdalena(マグダレーナ)」。数々の賞を受賞しているヘッドバーテンダーが奏でるバッハカクテル(5種)をはじめ、各種ビール、ウイスキー、ブランデーは勿論、ウェルネスカクテルやノンアルコールドリンク、また軽食やヴィーガンアイスクリームなどをお召し上がりいただけます。ボトルキープも可能です。
 

バー&ラウンジ「Magdalena」
バー&ラウンジ「Magdalena」
「Magdalena」入口にてグランドピアノがゲストをお迎えする
「Magdalena」入口にてグランドピアノがゲストをお迎えする


▶今回の「アイル・オブ・ラッセイ ブレンディングセッション」参加に際し、どのような学びを期待されていましたか?
 
高橋: 2014年からの新しい蒸留所“アイル・オブ・ラッセイ”に抱いていたイメージは、最先端のブレンディング技術でした。様々な原酒や複数の樽を使用し、複層性の香りや味わいを感じるにも関わらず、バランスに優れているウイスキー。それらの原酒をどのような比率や構成でブレンドされているのかという知識を得たり、ブレンドの楽しさと難しさを学べる機会と期待しておりました。
 
▶実際にブレンディングを行って、何が一番難しいと感じましたでしょうか?
 
高橋:まず初めに6種類の原酒をテイスティングし、それぞれの個性を知ってブレンドしなければなりません。それぞれがとても個性的な原酒なので、それだけでも非常に“美味しい”と思いましたが、どんな比率がよいのかを考えることに難しさを感じました。例えば、私がオリジナルカクテルを作る際は、全ての材料を同量入れてから材料の香りや味わいの感じ方で量を調整していきますが、ウイスキーの場合は、それでは上手くいかないということを体験しました。カクテルとは違った難しさがあるからこそ、その深さに興味を持つことができました。
 
▶ブレンディングを体験することによって、ウイスキーに対する見方はどのように変化しましたか?
 
高橋:様々な原酒、樽を使用した原酒をブレンドすることによって、様々な味わいを作りあげることが可能だという理解を新たにしました。以前は、ウイスキーでは酒精が高すぎるので、食事とのペアリングはしにくいと考えていましたが、今回のように、ブレンドで様々な味わいや香りを試すことで、フードペアリングも可能なのでは?とウイスキーに対する見方が変わりました。
 
▶アイル・オブ・ラッセイは3種類の樽に、それぞれピーテッドとノン・ピーテッドを掛け合わせた計6種類の原酒がベースになっています。今回のセッションでは、どのような構想でブレンドを考えたのでしょうか?
 
高橋:まずは、ヘブリディアン・シングルモルトの比率を再現したいと思い試してみました。その後は、前述の通り、どのような料理と合うかな?と考えながらメイン原酒の比率を変化させていきました。ライ・ウィスキー原酒の比率を多くするのであれば、ブルギニョンバターかな?チンカピン原酒の比率を多くするなら、ナッツ入りのフォアグラパテ、またボルドーワイン原酒がメインなら牛肉ステーキがいいかな?と頭の中で楽しみながら構想しながらブレンドしてみました。
 
▶アイル・オブ・ラッセイの魅力とは何でしょうか?
 
高橋:初めてラッセイを飲んだのはまだオフィシャルが出る前で“While we waitラッセイ”というものでした。それは、今のラッセイの指標を表す一杯でした。その時から複層的な香りや味わいで期待が膨らんでいました。今のヘブリディアン・シングルモルト・ラッセイは、正に待ちわびていたイメージのウイスキーで、更に複雑な味わいや香りがします。個人的には、ウッドフォードの樽や、カロンセギュールの樽を使用しているというポイントも魅力的と感じました。(好みのお酒でしたので)
更に魅力的なのは、ヤングエイジングなのに驚くほどに熟成感があること。会場でも質問しましたが、これこそがブレンディング技術がなしうるものだというお答え頂きました。これから益々注目されるウイスキーだと確信しました。
 
▶最後に、今回の学びを実務にどのように活かせそうでしょうか?
 
高橋:実務でウイスキーをアップセールするには、あらゆる知識と説明が必要になります。今回の学びから、ラッセイの魅力を十分に知ることが出来ましたので、お客様へのアウトプットイメージが湧いています。ホテルグランバッハ東京銀座のバー&ラウンジ「マグダレーナ」でも、ご紹介して行きたいと思います。
 
 
【学びの場】
インターネットで検索を行えば、知識や技術について様々な情報を得ることができる今日、リアルで開催するセミナーが持つ意味は何であろうか。筆者は身体性と場という二つの概念が鍵になるのではないかと考えている。
 
同じ情報であっても、言語化されていないものや雰囲気と呼ばれるようなコンテクストにも関わる情報は、オンラインと現場で感じるものでは差異が生じる。特に、エクスパーティーズと呼ばれる熟練された技術や認知体系を持つ人の感覚は必ずしも知として形式化がし易いとは限らない。身体に刻まれた記憶とでも表現するような感覚は、現場においてこそ、主催側と参加側の間でやり取りされるのではないかと思う。
 
また、そうしたプロが集まる場は、独特の緊張感が生まれる。サービス品質を高める上でも、こうした緊張感は欠かせない。切磋琢磨する姿を互いに認識することで生まれるモチベーションもあるだろう。その場ならではの空気感を通じて活力を得るという点でも、リアル開催の良さがあるように思う。
 
遠方の生産者ともオンラインで繋ぐことによりセミナー開催をしやすくなった今日、輸入業者にとっては、プロモーションという意味だけでなく、業界にとっての「サンドボックス」を提供していくことがより重要になってきているのではないだろうか。
 
特に酒類業界は、先の飲酒ガイドライン含め整備が今後進むにつれて大々的な飲酒プロモーションも行い難くなってくる可能性も考えられる。現状のプロモーションだけでなく、試行錯誤による新しいヒントが生まれるような場を設計するという視点も必要になると感じている。
 
そうした意味でも、今回のアイル・オブ・ラッセイ ブレンディングセッションは、蒸溜所の個性を理解しつつ、ブレンドをするという体験を通じて、ウイスキーへの理解を深め、販売の可能性を広げる試みであったと思う。そのことは、ホテルグランバッハ東京銀座の高橋氏がフードペアリングへのヒントを感じたことからも理解できるのではないだろうか。また生産者にとっても、新商品開発や市場性調査という意味でも良い機会になったのではないかと感じた。
 
以下、参加者からの質問で専門的な内容に関することがあったので、補足として記載する。専門的な話なので、興味のある読者は一読してみてほしい。

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