UCCグループ内で、全国の喫茶店・ホテル・レストラン等向けに業務用サービス事業を担うUCCコーヒープロフェッショナル(株)は、同社が販売する『Largo』(ラルゴ)をブランドラインの中で最高峰となるラグジュアリーブランドに位置づけ、そのブランド体験を再構築することを発表した。
この背景には「消費者体験の刷新」がある。普段からより上質なものを体験する消費者が増えて来たことに対し、ホテルやレストランはどのように対応していけばよいのか。その答えとして、UCCコーヒープロフェッショナルは『Largo』という商品を基軸に、業務店が最高峰の体験づくりを提供できるようトータルサポートを用意している。
今回の再構築に際し、新たに「心を満たす。人生を奏でる。」というブランドステートメントを掲げ、更に『Largo』を実際に体験し、品質の高さを五感で感じられる専用ショールーム 「Largo Experience Room」を新設した。また、2023年1月からスタートしているUCC独自の制度「The Great Barista of Largo ~達人のコーヒーが飲める店~」により、知識と技術面のサポートも行っている。
以下、どのような背景でブランドを再構築することとなり、それによってどのようなメリットが生まれるのかを解説していきたい。
【Largo】
筆者が『Largo』を知ったのは、飲食店で筆記体の「ℓ」が掛かれた印象的なボトルを見たのがきっかけだ。当時、UCCが扱うブランドだとは知らなかったが、ラルゴという業務用商品があることを知った。その時にふと思ったことがある。なぜコーヒーはメニューにコーヒーとしか書かれないのだろうか、と。
専門店でない限り、多くの飲食店ではメニューにブランド名や産地の記載がなく、単に「コーヒー」と記載されているように思う。しかし、これが「ワイン」や「ウイスキー」としかメニューに書かれていなかったらどうだろうか。こだわりが無ければよいかも知れないが、飲みたい人にとっては「どんなワイン(ウイスキー)なのだろうか?」と疑問を持つことだろう。
だからこそ、今回『Largo』のブランド体験再構築に際し、どのような消費者体験を描いているのか気になった。業務用商材をどのようにして消費者に浸透させていくのだろうかと。特にコモディティとして消費されやすい商材を新しく伝え直すのは骨が折れるが、競争で勝ち抜く上では欠かすことができない。どのようなコミュニケーションを取るのだろうか、そこにはどのようなUXやジャーニーが描かれているのだろうかと気になったのだ。
結論から言うと、消費者への直接的な訴求のためではなく、業務店と共に価値ある一杯を提供するために『Largo』というブランドを基軸とした業務用のトータルソリューションの提供を行うためのブランド体験再構築であった。
『Largo』は最高峰となるラグジュアリーブランドに位置づけられる
『Largo』は業務用のブランドであり、UCCコーヒープロフェッショナルが取り扱うブランドの中で最高峰のラグジュアリーに位置づけられる。小売市場含め「より上質を求める」消費者が増える状況下、採用店と共に「心を満たす。人生を奏でる。」一杯を提供できる環境を構築していくのが目的だ。
この再構築の背景には「消費者体験の刷新」がある。それを理解するためには、コーヒー市場の変化を見ることが必要となる。
【消費者の体験が刷新されるとき】
以前、小売用のCOFFEE STYLE UCCを紹介する記事の中で「小売りの体験が刷新されるとき」という小見出しで消費者体験のアップデートについて触れた。コーヒーという自宅でも飲食店でも消費される飲料だからこそ、業務店ならではの価値化が不可欠になってきていることを指摘した。
UCCによれば、非アルコール系有価飲料摂取量としては、2015年よりコーヒーが一番多く消費されており、2022年時では一人あたり年間86.7ℓを消費しているという。そんなコーヒー市場を見てみると、インスタントコーヒーは縮小傾向にあるが、レギュラーコーヒーは増加傾向にあり、中でもプレミアム製品の構成比が拡大傾向にある。
前述の記事でも触れた通り、コロナ禍を経て消費者行動に変容が見られている。より上質を求めるトレンドは読者の方々も肌で感じていることとは思うが、在宅時の消費が上質になるにつれ「前はいいと思っていたのに、家の方が美味しいね」と感じられる可能性が生じてくる。
一方、消費者トレンドではなく現場を見てみると、慢性的な人手不足や技術不足により「コーヒーまでは手が回らない」もしくは「後回し」になっている状況はないだろうか。最高の料理と最高のサービスであったとしても、最後の一杯がそれらに見劣りする品質であれば、少し残念に感じてしまうことだろう。実際、筆者の知り合いでも余韻を壊したくないとして、食後の飲料を頼まない方もいる。
そこを解決(もとい高付加価値化)するために、『Largo』ブランドの再構築が行われたのだ。業務用最高峰としての品質だけでなく、『Largo』という商品を基軸にして、業務店と一緒に価値を創り上げていくのが目的だ。だからこそ、品質はもとより、体験そのものをサポートする必要が出てくる。
新たに設定されたブランドスパーパスは「心を満たす。人生を奏でる。」
【フレッシュアロマシステム】
まず品質が良くなければ採用を見送る読者も多いと思う。『Largo』はUCC業務用ブランドの最高峰であり、世界初の「フレッシュアロマシステム※」という製法を採用している。この製法によりおいしさの決め手となる「香り」を豊かにすることが可能になる。(※フレッシュアロマシステムは『Largo』のBOTTLE MODEL(缶)のみに採用されている製法)
焙煎直後の炒り豆をマイナス2℃の冷気で急速冷凍した後、独自開発したアルミ特殊缶に完全密封する。そうするとコーヒー豆から発生する炭酸ガスにより内圧が上昇していき、三週間程で平衡となり、ベストな状態が保持される。缶内のローストしたコーヒー豆は多孔質なので、そこに含まれるコーヒーオイルに香りが吸着されていく。これにより『Largo』のコーヒーでは、焙煎直後との比較において、抽出液の総香気量が22%も向上する。
実際、缶を開栓する際にガス抜きのために専用の器具で穴をあけると、缶内の香気成分を含むガスが「プシュー」という音を立てて10秒近く立ち上がる。ローストの香ばしさだけでなく、熟成による旨味を想起させてくれる香りが部屋中に広がるのがとても印象的だ。
『Largo』にはAUTHENTIC(白)とDARK(黒)の二種類がある。AUTHENTICは酸を基調としたクリアさのあるブレンドなのに対し、DARKはカカオのような重厚さとコクが感じられるブレンドになっている。
両者の特徴はエスプレッソにした際にとてもよく感じることができる。AUTHENTICは中盤からの伸びやかな酸に特徴がある。酸によりスリムな印象になるかと思いきや、シームレスで目の詰まったコーヒーのボディとのバランスがよく、透明感がある。透明感があるからこそ、香りも華やぎ、砂糖を加えることで、酸、甘さ、濃さのバランスがとても調和して感じることができる。一方DARKは、ローストの香ばしさに加え、奥深さとチョコレートのような濃密さ、そしてほのかな苦味がギュッと詰まっており、満足感のある一杯を楽しむことができる。思わず、飲むよりもソースとして活用した方が面白いのではないかと考えてしまうほどであった。
筆者自身、とても勉強になったのがラテにした時だった。それぞれミルクの感じ方、もっと言えば、ミルクへの光の当て方に違いがあるように感じた。例えるなら、AUTHENTICは「印象派、特に花の絵画」、DARKはマグリットの「光の帝国」のような印象だ。前者はミルクが持つ柔らかさと甘さが浮かび、後者は暗闇に浮かぶ光のように光沢感と立体感を演出してくれる。またコールドブリューで抽出したものは、生豆を想わせる心地の良いグリーンさがあり、初夏の新緑の季節や、梅雨時期の憂いを払う一杯としても似合う味わいであった。
AUTHENTIC(白)とDARK(黒)の二種類以外にも、年に一回限定アイテムの展開も予定されている。UCC業務用ブランドの最高峰というのも、飲んでみて納得する品質と味わいであった。
【Largo Experience Room】
品質が良くても、それを扱う技術が拙ければ最高のものを提供するのは難しい。だからこそ、UCCコーヒープロフェッショナルは、商材だけを販売するのではなく、採用店と一緒に「心を満たす。人生を奏でる。」一杯を提供するためのサポートを行う。今回の再構築に際し、UCCグループ青山ショールーム内に新設された『Largo』を体験できる専用ショールームもその一環だ。
重厚さと高級感のある新設された専用ショールーム
専用ショールームを訪れて思ったのは、リファレンスポイントを持てるというメリットだ。基準点を自分の中で持つことができれば、どのようにブレているのかも理解することが可能となる。また、基準を知るからこそ、自分の中での応用の可能性も感じることができるであろう。商品そのものではなく、自身の店舗で提供する最高の一杯にするにはどうすればよいのかのヒントが専用ショールームに訪れることで見いだせるかも知れない。
上述したDARKのエスプレッソを飲んだ際に、料理に使えないかと考えたことが、正にその一例だと感じている。品質の軸を作るだけでなく、想像性を掻き立てる場としても機能することだろう。
【認定制度】
サポートは専用ショールームの新設だけではない。UCCコーヒープロフェッショナルでは、2023年1月からスタートしているUCC独自の制度「The Great Barista of Largo ~達人のコーヒーが飲める店~」により、知識と技術面のサポートも行っている。
認定は達成基準によってブロンズ、シルバー、ゴールドの三段階に分かれている。達成に必要な知識や技術習得は、様々な大会でも入賞実績を多く有するUCCコーヒーアカデミーの講師が監修を務めている。
人材不足が顕著な今日、教育に割ける時間や人手も確保することが難しくなってきている。また外国人材の活用に際しても、知識や技術を習得してもらうことで、即戦力として活躍してもらう方が望ましいだろう。そうした際に、認定制度を含む教育や実技のサポートがあるのは大変心強いと感じる。
また、認定制度という教育面だけでなく、実際に店舗に必要なコーヒーマシン、カップなどのサポートを行っており、これが『Largo』を基軸に「心を満たす。人生を奏でる。」一杯を共に創り上げていくためのトータルサポートと表現する所以である。
【変化が速い時代だからこそ】
話をまとめると、消費者がより上質なものを求める今日、業務用だからこそできる価値のある一杯を提供していくことが必要になってきている。しかし、昨今の事情から、中々コーヒーまでは手が回らなかったという方々もいることだろう。そこを克服するために、今一度『Largo』というブランドを再構築することで、採用店とメーカーが手を取って、共にその一杯を創って行こうというのが今回再構築した理由だと理解している。
消費者は多種多様な体験をしている。変化の速い時代だからこそ、自社だけでは対応が遅れることもある。『Largo』はUCC業務用ブランドの最高峰であると共に、現場にとって心強いパートナーとなるブランドとして広がっていくように思う。
担当:小川