人が人をもてなす価値を感じられる環境を整備
----ホテル業界はいま、深刻な経営課題として人手不足がありますが、人材の採用や育成、定着において、重要視されていることはありますか。
テクノロジーの進化でさまざまな仕事が AIに置き換わる時代ですが、人が人をもてなして喜んでいただく価値は、ほかには代えられないのではないでしょうか。この仕事の貴重さや本質的な価値を、働く方にもしっかりと感じていただくために、その環境づくりとキャリア構築に注力しています。採用においても、ホスピタリティ人材に限ることなく、マネジメントを希望される方も採用し、支配人になれば「ホテルの経営者」という位置づけに。ある程度の采配を自分で振ることができる体制をとっています。
----担い手不足のなかで、IT・DX化も急務とされています。自動チェックイン機などは以前からありますが、働く現場、裏側の部分において、IT投資などの計画はいかがですか。
ちょうど今年、業務量調査を実施し、作業時間と、それがどれだけ付加価値を生んでいるかを調べました。すると業務は、「対人に関するアナログ業務」「完全にデジタル化している業務」「デジタルにはなっているけれど、入力や確認などを人がやっている業務」の 3つに分かれました。そして、完全にデジタル化をして運用できている業務は1割にも満たなかったのです。その一部をシステム化すれば、「これだけの費用対効果が出る」という試算がでましたので、優先順位をつけながら、投資の順番を考えています。ただ、すぐにできる取り組みはすでにはじめており、売上日報などは完全にペーパーレス化し、締めの作業をワンクリックで終われる環境を実現したところです。
----また、育成や研修などのソフト面はどのような活動を実施されていますか。
コロナ禍を経て 2023年 3月から、「おもてなし原点会議」という全国約40人のスタッフが集まる会議が行なわれています。初回の議題は、コロナという特殊な期間を経て、今一度私たちが「なぜホテリエになりたかったか」を初期衝動も含めて思い返し、「どんなホテルでありたいかをみんなで考えよう」というもの。そのメンバーからの発案で、改めてお客さまに聞いてみたい質問を集めたアンケートを、先月から 1カ月半ご協力いただいています。このアンケートが、なんのインセンティブもないのに、すでに 1000件程度集まっていて、私たちへの期待と共に、「スタッフの想いをしっかり汲んでいただけている」と感じました。
----これから 50年、100年とホテルが持続可能な運営と経営を行なうために、事業者との良好なパートナーシップも重要です。運営者の立場から、事業者やステークホルダーとのこれからのホテルづくりの在り方、お考えを聞かせください。
ホテル事業には、お客さま、従業員、事業主、金融機関など、さまざまなステークホルダーがおり、私たちはすべての方がハッピーになるホテル運営を意識しています。そして、その価値を事業主様にも評価いただけるという自負を持っています。それぞれのステークホルダーと向き合い、バランスをしっかりと見て、ホテル運営を続けていきたいと思います。
目に見える価値に普遍性はなく、いつか真似をされてコモディティ化してしまいます。では、何をホテルにおける普遍的な価値としていくかと言えば、私たちは、目に見えないお客さまの満足や、食の部分を追求していきたいと考えています。それは、私たちにしかできない、唯一の競争力になり得るのではないでしょうか。創業から70年以上食に携わってきたロイヤルグループですから、例えこの先、先行するホテルが出てきても、必ず私たちは超えていきます。
----最後に今後の計画について教えてください。海外進出の計画などはありますか。
現時点でリリースできる案件はありませんが、コロナ禍が明けた今、年に一度のペースで安定的に新規出店を目指したいと考えています。また、その延長には海外出店も視野にあります。グループとしても、シンガポールに展開する直営の企業を現地に設立していますので、いつか自然な流れで挑戦するべき時がやってくると考えています。