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HOTERES Entertainment Select! Vol.6

築地本願寺が改革に活用する、エンターテインメントとSNSの力

2023年07月11日(火)
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国の重要文化財でもある、伊東忠太氏設計による古代インド・アジア仏教様式が模された本堂。堂内の様子は開門時間中常にYouTubeでライブ配信されている。YouTubeのコンテンツには、堂内に併設されるパイプオルガンをYouTuberのハラミちゃんが演奏する動画も
国の重要文化財でもある、伊東忠太氏設計による古代インド・アジア仏教様式が模された本堂。堂内の様子は開門時間中常にYouTubeでライブ配信されている。YouTubeのコンテンツには、堂内に併設されるパイプオルガンをYouTuberのハラミちゃんが演奏する動画も

〝また来たいお寺をめざして“〝より開かれたお寺へ“をスローガンに、創建400年余りを誇る築地本願寺が、画期的な寺院改革に着手してから早6年強。築地本願寺の改革は、寺院改革の域を超え、さまざまな領域における再生や改革のロールモデルとして注目されている。SNS戦略に加え、仏教についての学習からヨガや生け花などのカルチャークラスまで、さまざまなサービスを提供している「築地本願寺倶楽部」、敷地内に創設したインフォメーションセンターなど、エンタメ性の高い取り組みも多い。これらは世代や時代の変化に即した変革を求められる、観光事業者や地方創生においても学ぶ点が多い。そこで今回は築地本願寺改革を牽引する、浄土真宗本願寺派築地本願寺代表役員宗務長の安永雄玄氏にお話を伺った。
取材・本誌 毛利愼 文 飯野耀子

浄土真宗本願寺派築地本願寺 代表役員宗務長 /グロービス経営大学院大学 教授  安永 雄玄氏
浄土真宗本願寺派築地本願寺 代表役員宗務長 /グロービス経営大学院大学 教授 安永 雄玄氏


築地本願寺改革の礎はファンづくり
 
 まずは、安永氏が築地本願寺改革で最も力を入れてきたことについて伺った。「檀家さんや寺院における葬儀の減少や少子化問題など、2015年の就任以前に、私が浄土真宗本願寺派の議決機関である常務委員、さらには築地本願寺の評議員になった時点で、門徒の減少は本寺院だけでなく、仏教界においても大きな課題となっていました。そこで、まずはより多くの方に本願寺に足を運んでいただき、お寺に親しんでいただくことで、築地本願寺のファンを増やしていくことが必須だと考えました。そこで、インフォメーションセンターの創設や、『築地本願寺倶楽部』の起ち上げなど、さまざまなセグメントから築地本願寺に触れていただく装置作りに着手し、倶楽部においては、近隣企業のみなさまと相互送客の協力をし、地域活性につながるように仕組みを作っています」。
 
 専門外はプロフェッショナルとタッグを組む
 
 次に、改革におけるプロフェッショナルの登用に目を向けてみたい。安永氏は、リブランディングにはクリエイティブディレクターが必要だと考え、現代美術作家の中山ダイスケ氏にトータルイメージのディレクションを委ね、コーポレートカラーの選出やロゴマークの作成から、境内の改修案に至るすべてのデザイニングを任せた。またソフト改革では、インフォメーションセンター内に併設した「築地本願寺カフェ」の運営を㈱プロントコーポレーションと、オフィシャルショップの運営を、ミュージアムショップのプロデュースに定評のある㈱オークコーポレーションとタッグを組み、大寺院への敷居をさげる誘客装置を作った。その結果、築地本願寺カフェは、朝食に提供する「18品の朝ごはん」が予約必須の人気メニューとなり、インスタ映えもいいことから、若者の間で築地観光の〝映えポイント“になった。新たな映えメニューであるブッダボウルも、インスタで衣をきた僧侶が食べる様子をストーリーズであげるなど、SNSでの見せ方も秀逸だ。ギフトショップではお菓子やステーショナリーなどの築地本願寺オリジナル商品に加え、都内の銘店商品が季節にあわせてラインナップされ、〝東京ギフト”という点においては百貨店に負けないセレクト力を誇っている。さらに、SNSでの発信では、若い僧侶たちの感性がコンテンツに活かされており、それに対する寛容さには目を見張るものがある。
 
この改革の成功に、ビジネスエグゼクティブとしてのバックグランドを持つ安永宗務長の存在が不可欠だったことは、言わずもがなである。その上で、築地本願寺が他に類を見ないエンタメ性を持った寺院改革を推進し得る点について、見解を伺ったみた。「複合的な要素があるとは思いますが、浄土真宗が民衆仏教から今日の形へと変革したという背景を持つことが、さまざまなエンタメ性をもった改革を実装し得る点につながっていると思います。簡単にいうと、当時は民衆が集まったところで法座を行こない、それが念仏道場となり、お寺になっていった。田植えや稲刈り後の余興にも、必ずお寺の存在がありました。ですから、彼らにとっては、お寺で偉いお坊さんの話を聞くことも、エンターテインメントだったわけです。現在の講談も、元をたどれば節談説教から発展したといわれています。さらにいえば浄土真宗の法要や儀式は常に進化する中で組み立てられており、お経にはメロディがついていたりします。初めて聞く方の中には、『讃美歌みたいですね』とおっしゃる方もいらっしゃるくらいです。そういった開かれた文化背景が、私の改革案採用につながり、さまざまな実装につながっているのではないかと見ています」。
 

築地本願寺におけるDX戦略
 
 2022年、築地本願寺はDX戦略の一環として、アプリのリリースを予定している。もともと、安永氏の改革案には〝スマートテンプル“も含まれており、宗教における新たなスタイルの確立にも期待が高まる。もちろんその点に関してはさまざまな意見があるといい、「全日本仏教会の最新の調査によるとやはりお寺には『リアル』を求める声が大きいのが現状です。しかしその『リアル』を充実させるための手段として『バーチャル』を活用していくことが時代の流れに沿った戦略であると考えています。〝また来たいお寺をめざして”というスローガンを掲げていますが、バーチャルを充実させてしまってはお寺に足を運んでくれる人がいなくなってしまうのでは? と懸念される方もいらっしゃいます。その可能性がまったくないわけではありませんが、〝いつでもどこでもお寺!”といった感覚で仏教や寺院に親しんでいただく中で、新たな出会いもあるのではないかと。そこで初めて築地本願寺や仏教に触れた方が実際にお越しいただくことにも期待があります。これには伏線がありまして、テレビで築地本願寺が取り上げられると、必ず、それをきっかけにお越しくださる方がいらっしゃるんですね。ですからバーチャルでも、同様の現象は起こり得ると考えています。さらにこれまで寺院に親しんだ方たちが、高齢化により実際にお越しになれなくなった場合にも、DXを活用すればお寺とのつながりを持ちつづけていただけます。昔はさまざまなライフステージの折に、日本人の生活にお寺の存在が密接な関係を持っていました。それが希薄になっている現状に対して、今一度、多様性に満ちたアプローチをしていきたいと思いますし、それにより築地本願寺はもちろんですが、仏教やお寺に興味を持ってくれる人が増えていただければと願っています」。
 
 築地本願寺では今後、本堂の耐震補強など、施設の補修工事に関する費用に関しては、クラウドファンディングによる支援募集も検討しているという。伝統は活かしながらも、時代の変化に即した変革を遂げる本願寺改革の軌跡は、観光業界における事業継承や再生においても参考となる点が多い。コロナにより時代が大きく変化した今は、改革に着手する大きなチャンスでもある。変化の必要性は感じつつも、具体的な一歩を見出せないでいる事業者はぜひ、安永氏が本願寺と共に歩んできた改革の歴史に触れてみてもらいたい。
 
※安永氏の役職は掲載時のもの、現在は西本願寺の執行長として‟本願寺改革”に尽力されている

 

テキストやカメラワークなど、SNSのプロが手掛けているかのごとくセンスの光るコンテンツが多い築地本願寺のオフィシャルTwitter(画像左)とInstagram(画像右)。いずれも僧侶として所属する職員が手掛けているという。ちなみに投稿内容については現場に任せているといい、安永氏の、若者に対する信頼と理解も改革を成功に導く要因だろう
テキストやカメラワークなど、SNSのプロが手掛けているかのごとくセンスの光るコンテンツが多い築地本願寺のオフィシャルTwitter(画像左)とInstagram(画像右)。いずれも僧侶として所属する職員が手掛けているという。ちなみに投稿内容については現場に任せているといい、安永氏の、若者に対する信頼と理解も改革を成功に導く要因だろう
築地本願寺では仏前結婚式も行われている。人気も高く、LGBTQカップルの仏前奉告式も受け付けており、多様性に対する考え方はグローバルスタンダードだ。さらにライフイベントに対する新たな取り組みとして、2020年には〝築地の寺婚“と呼ばれる結婚相談所も開設した
築地本願寺では仏前結婚式も行われている。人気も高く、LGBTQカップルの仏前奉告式も受け付けており、多様性に対する考え方はグローバルスタンダードだ。さらにライフイベントに対する新たな取り組みとして、2020年には〝築地の寺婚“と呼ばれる結婚相談所も開設した

​担当:毛利愼 mohri@ohtapub.co.jp

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