約 50人のスタッフがマルチタスクで働く「界 日光」
----初めに、星野リゾートが展開する「界」ブランドについて改めて教えてください。
「界」は、日本各地に点在する温泉地の魅力を伝えるべく、星野リゾートが展開している「温泉旅館」です。北海道から九州まで、現在 22施設がありますが、将来的には 30施設を展開し、「日本の有名な温泉地には必ず『界』がある」「全国の『界』をめぐることで、それぞれの地域の魅力を再発見できる」という、日本の旅の拠点のような存在になれればと思っています。
コンセプトは、「王道なのに、あたらしい。」。日本らしい趣や季節感を大切にしつつ、現代的にアレンジした和の空間で、温かいホスピタリティとクオリティの高いサービスを提供することが私たちの目標です。
----「界日光」の特色とは。
「界日光」は、前旅館をリニューアルし、2014年にオープンしました。中禅寺湖と男体山を望む好立地を活かし、レイクビューの客室をご用意しているほか、「鹿沼組子」や「日光彫り」といった、その土地ならではの伝統工芸のあしらいを館内各所に施し、土地の魅力を存分に楽しんでいただけるようデザインしています。
さらに私たちは、ご当地の魅力を発信する界ブランド統一の取り組み「ご当地楽」で、界日光オリジナルの「日光下駄談義」という催しを開催しています。日光には、神官や僧侶のはきものを由来とする「日光下駄」があるのですが、スタッフがこの下駄をはき、タップダンスを交えながら土地の歴史や魅力をストーリー仕立てでお伝えするという内容は、お客さまにもご好評を得ています。
----「界日光」は、2014年のオープンから、来年は 10周年を迎えます。その間、大きな変化はありましたか。
建物の大きなリノベーションはありませんが、ソフト面での気づきは日々あります。特に、広域からの集客が見込めなくなったコロナ禍では、マイクロツーリズムの視点から、地元の方に新たな土地の魅力を訴求すべくスタッフ全員が知恵を絞りました。その結果生まれたのが、「羊羹フォンデュ」というサービスです。
羊羹は、「夏、暑い時に食べるもの」という地域が多いですが、栃木には昔から「寒い冬に、暖かい炬燵に入って羊羹を食べる」という風習があります。そこで、羊羹をフォンデュにしたものを冬の夕景が美しい時間帯に合わせてお出ししたところ、土地の方には「こんな楽しみ方があるんだ」と喜んでいただけました。
一方、他地域からお越しの方には「冬の羊羹もいいね」と新鮮な反応をいただき、「地元で見慣れたものも、外から見れば新鮮なものもある」という新たな気づきを得られました。
----星野リゾートでは、1人がフロント、清掃、レストラン業務など複数の業務を行なう「マルチタスク」を導入していることも特徴ですが、「界日光」も同様ですか。
はい。「界日光」でも、およそ 50人のスタッフがほぼ全員マルチタスクで仕事をしています。業務の合理化を狙った側面もありますが、例えば送迎を担当したスタッフが、「日光下駄談義」の舞台で踊る姿を見れば、お客さまはより親近感を感じてくださいますし、スタッフ全員が常にお客さまと触れあう機会を得ていることで気がつくことも多くあります。先の「羊羹フォンデュ」も、その土地で暮らし、実際にお客様に触れ合う機会を持つスタッフの視点があったからこそ、生まれたアイディアだったと思います。