事業ポートフォリオのバランスを整備

デュシット・インターナショナルの CEOに着任をし、未来を考えた時、まずは事業ポートフォリオのバランスを整えることが必要だと考えました。それまでのデュシット・インターナショナルはラグジュアリーホテルやリゾートの運営からの収入が90％、デュシタニ・カレッジからの収入が10％であり、どちらも密接に関連をしていています。ある一つのビジネスに依存し過ぎることは、危機発生時にその脆弱性が露見するリスクがあります。事業は常にリスク管理が重要です。複数の事業のエンジンを持ち、あるエンジンが使えなくなったらほかのエンジンで補わなくてはならない。そうすることで、事業の安定した継続が可能となるのです。
 
そこで、私は 9年間のロードマップを作成しました。最初の 3年間はデュシット・インターナショナルの方向性を明確に示し基盤を作ること、そして次の 3年間は今後のビジネスのエンジンとなる事業の柱を育てていくこと、そして最後の 3年間はそれらのバランスをとること、というものです。
 
まず、ホテル・リゾート事業では従来のラグジュアリーだけに偏らないブランドポートフォリオを目指し、最先端のデザインと利便性を兼ね備えた「dusitD2」ブランドを立ち上げたほか、既存ブランドのブランドセグメントを明確にしました。さらに、2018年にはラグジュアリー領域のヴィラバケーションレンタルの事業を展開する「エリートヘブンズ」を買収し、ホテル領域でのブランドポートフォリオを拡充させました。その後、今年日本に開業するミレニアル世代をターゲットとしたホテルブランド「ASAI（アサイ）」も2020年に立ち上げています。
 
また、ホテル・リゾート以外での領域では 2018年に「Dusit Foods」を、2019年に不動産開発事業と「HOSPITALITYRELATED SERVICES」を立ち上げ、事業ポートフォリオを広げました。
 
まさにその後、新型コロナウイルスが世界で大流行し、ホスピタリティー業界が大きな打撃を受けたことはご存知の通りです。私たちももちろん影響を受けましたが、複数の事業展開がデュシット・インターナショナルを救ってくれました。特にラグジュアリーヴィラ事業はドメスティックのお客さまに支えられ、私たちデュシット・インターナショナルは現在改装中のデュシタニバンコクだけでも500名以上のスタッフがいますが、コロナ禍でもその雇用を守ることができました。
 
また、コロナ禍中はホテルスタッフがほかの事業で働くなど、柔軟な対応ができたことも奏功しました。レストランで働いていたスタッフがホスピタリティー関連事業で働き、ケータリングやハウスキーピングまでする。そうしたことで、この厳しい苦難を乗り越えることができたのです。