地元の人たちと文化に、観光客が寄り添う
その後九州大学で教えた際には、慶応大学で行った江戸時代のまちづくりとはまた少し違う形で、もう一度まちづくりについて研究しました。それが今まさに伝泊でやっていること、「高齢者・障がい者と観光客の交流を生み、集落住民と文化に寄り添う観光」でした。その背景として日本の各地域にそれぞれローカリティ・オリジナリティがあることを、実際に全国をまわって確かめ、地方こそ宝物だと認識していました。
観光客の役割は「きっかけを作る」、「新しいエネルギーを生み出す」、そして「お金を落とす」です。これにより集落の活性と持続が可能になると考えました。僕は「お客さまは神様」という言葉は嫌いです。そうした観光客が主役の観光や、国・行政が主導となって大きな単位で実行していくまちづくりよりも、本当の住民たちの幸せを考えていくほうが僕は楽しいと思います。集落を単位として捉えて、そのネットワークが広がったときに、町になり、市になり、県になり、国になるんだって考えるほうが明らかに楽しいと思うんです。そういうなかで、今の伝泊の原点となる「集落住民の日常の生活に寄り添う、それこそがまさに観光なんだ」ということを考えて、5年間学生たちと研究に励みました。
また、世界自然遺産になった奄美には何が必要なんだろう、海外の人が一度ではなく何度も来たいと思うものってなんだろうと考えたときに、奄美に残る約360の集落と、それぞれに少しずつ異なる文化が受け継がれていることに着目しました。実際に今でも2キロ離れたところに住む人とは方言が異なります。そうしたそれぞれの独自性が綺麗に残っているのは、世界でもとても貴重な事例です。だから、僕は自然以上に、文化こそ奄美群島の財産だということを言い続けていて、それを守るための仕組みとして伝泊を作りました。
建築家である山下が奄美の文化をどうやって次の時代に継続していくか、そのために何をやったほうがいいかを考えて、古民家の改修を皮切りに集落の活性化に着手したり、まちづくりの本質を考える上で「じいちゃん、ばあちゃん、障がい者に優しいまち」であることは不可欠だと考えて高齢者施設を作ったりしています。極めてシンプルなコンセプト「奄美にとっていいことをやろう」という一貫した気持ちを持って、日々実直にまちづくりに取り組んでいます。
----最後の質問になりますが、どんな人にどのように泊まってほしいですか?
できれば先に「伝泊 古民家」や「伝泊 奄美ホテル」に泊まって、僕がベーテルや大学講師として学んだまちづくりを感じてもらい、集落の日常に浸るような滞在を通して奄美を体験していただきたいです。
そしてその後MIJORAに泊まって、自然を介して自分自身を振り返る禅的な時間を体感してしてもらうという、2つの側面から伝泊を味わっていただける方に来てもらえるのが理想だと考えています。
都会にいると、人間が生きていくって何なんだろうとすごく感じます。そういう意味では、人間が人間たり得るかということは東京だけじゃもう解けないと思います。都会から来た人たちが自ら、自分自身を振り返り、社会を考える。そんな、何かのきっかけとなるような場所でありたいと考えています。