「何もない」ではなく「ありのまま」を
アクティビティプランやガイドさん主導のツアーのような、宿側が用意してお客様に提供される、いわゆる『奈良井宿』じゃなくても出来る体験。そういうものを「物語」として感じてほしいわけではありません。この宿場町では人々の生活の営みが今も続いていて、そんな街本来の姿を後世に遺していくためには、本質を分かってもらうことが大事なんです。初めて来た人がその土地のことを理解するのは難しい…。そこで僕たちが理解したこの土地の本質的な魅力をお客様にお伝えする、それが奈良井宿でのBYAKUの役割だと思っています。
地域の食材や伝統的な家具の背景にある「物語」
≪BYAKUでは、お部屋のコーヒーカップやレストランのお皿、さらにバーのカウンターまでが漆塗りという伝統的な技法によって作られており、至る所で奈良井の魅力に触れることができる。レストランで出される料理の食材にもこだわっており、シェフ自ら毎日4時間かけて食材を調達しているそうだ。「街並みにも文化にも、全てには背景や物語がある」と語る高山氏に、奈良井の伝統的な文化に対する思いを伺った。≫
実はBYAKUには売店が無くて、これからも漆器や部屋の設備品を売ることは絶対にありません。この宿の売店で買うものと、職人さんに話を聞いたり作る現場を見せてもらったりして、その背景にある「物語」を知ってから買うものとでは「物の価値」が違います。実際に僕が職人さんから聞いた話なのですが、漆器の最も優れた点は「山に捨てても害がない」(土に還る)ところだそうです。昔から木曽の文化というものは、食も工芸品も全て、山からの恵みをいただいて自然とともに生きています。漆を塗り直すことで長い間使えて、その時代に合ったデザインにすることも出来て…。今で言うSDGsを昔から当たり前に実践していたというわけです。今までの奈良井宿は、宿泊施設の少なさなどから観光客の平均滞在時間がとても短かったために、このような話を知ることもあまりない状況でした。そこで、奈良井宿に興味を持っていただき、より深く知ってもらうために、BYAKUは「物語」をお伝えしたいのです。
----ここまでのお話を聞いて、観光客に訪れてもらいたいと思う一方で、奈良井宿で暮らす人の生活を守りたいという気持ちにもなってしまいました。
そうですね、矛盾は確かにあると思います。それは僕たちだけではなく町の人も、葛藤や矛盾を抱えながら奈良井宿の在り方について模索しているところです。ホテル側の理屈での理想や主張を提示して町の意見を変えることはできません。僕たちはこれからも町の意見・意向に寄り添って、地域と並走していきたいと考えています。
【施設概要】
BYAKU Narai
https://byaku.site/
所在地:〒399-6303 長野県塩尻市奈良井 551
客室:12室付帯施設:レストラン、バー、温浴施設、ギャラリー
事業主:株式会社ソルトターミナル、⼀般社団法⼈塩尻市森林公社
運営:株式会社奈良井まちやど(株式会社47PLANNINGのグループ会社)
設計:歳吉屋/株式会社⽵中⼯務店 上原屋/株式会社ツバメアーキテクツ⼀級建築士事務所
施⼯:歳吉屋/北信⼟建株式会社 上原屋/株式会社野⽥建設